2024年4月19日(金)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2014年4月22日

 当然ながら、経済構造転換がスムーズに進んでいれば、消費が盛り上がって投資の必要性を減じていくので、景気対策は必要なかったとも言える。言い換えれば、鉄道建設や住宅投資など今回の公共事業は、短期的には中国の景気を支えるものの、長期的には中国経済の構造転換を遅らせるものとなる。

 2014年の中国経済で注目すべきは、政府の経済成長率目標7.5%前後が達成されるかどうかだけではない。経済構造転換が着実に進むかも大事な点であり、公共事業が伸びる形での7.5%成長は最適な姿とは言えない。

景気・構造改革両睨みが不可欠な中国経済

 中国経済においては、そのGDPの1/3とも、6割に上るとも言われるシャドーバンキングも懸念されている。シャドーバンキングは、一般的な銀行を介さない金融取引や金融商品の総称であり、正式な金融システムに乗らない資金の流れということができる。

 このシャドーバンキングについて、中国政府は、一部の金融商品のデフォルトを容認した上で、金融リスクの拡散防止に全力を挙げる考えを示している。市場では、この動きをリスクと捉える向きもあるが、景気対策とは逆の見立てをしなければならない。

 すなわち、短期的には市場の不安を高めるものの、中長期的には金融システムを安定させるとの見方である。それは、いずれシャドーバンキングを巡る資金の流れを正常な金融システムに乗せる方向であり、「預金金利自由化が1、2年以内に実現する可能性」を示した人民銀行周小川総裁発言も、シャドーバンキングが提供する高利商品を正常な金融システムに取り込むもので、同じ方向を向いている。

 経済動向や金融を巡る中国政府の対応から見えてくるのは、短期的な経済成長と長期的な内需主導型経済への転換を両立させようとする姿勢である。それは、短期的には新規求職者を吸収する経済成長率の達成を不可欠とするものである。

 長期的には、消費増を支える賃金上昇が重視される一方、外需増の重要性が減じていくということである。それは、安く輸出することが重要な時代から安く輸入することが重要な時代に変化していくことで、人民元がさらに切り上がっていく方向でもあろう。

 中国経済については、中長期的な視点を踏まえながら足元の動向を見ることが欠かせない。景気の好不調や景気刺激策を注視することも欠かせないが、経済構造改革の進展を勘案することも軽視してはならない。

 その意味で、現在の中国経済は短期の景気動向も長期の構造改革も不安なしとは言えない。しかし、中国政府の政策対応は短期と長期両方について制御され、秩序立っており、いまのところ景気動向、構造改革とも政府想定の範囲内で進捗していると見ることができる。


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