ウクライナ問題による
北方領土と尖閣への影響


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部准教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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ウクライナ情勢に鑑み、日本は3つの問題に直面したといえる。第一にロシアとの関係、第二に米国との関係、第三に尖閣問題で高まる危機感である。第一と第二の問題は相互に絡んでおり、また第三の問題は第二の問題と大きく連関している。

ロシアの領土問題に対する「2つの姿勢」

 就任以来、北方領土問題の解決を目指して、プーチン大統領と既に5度会談し、良好な関係を築きつつあった安倍総理にとって、ウクライナ情勢は大きな衝撃だったはずだ。米国からの圧力も大きい中、G7としてロシアに対する制裁をせざるを得ない状況になった上に、近く予定されていた岸田外相の訪ロも延期せざるを得なくなった。

 しかも、最近のロシアの領土問題に対する姿勢は日本にとっては極めて分が悪い。ロシアは近年、領土問題を精力的に解決してきたが、筆者はロシアの領土問題に対する政策には2つのタイプがあると思われる。第一が実利型、第二が歴史確認型である。

 実利型の例としては、中国とノルウェーとの問題解決があり、どちらも、五分五分の分割で問題を解決している。中国については、米国と対峙し、世界の多極化を進めるためには中国との連携が重要と考えたと思われるし、ノルウェーについては係争中の領海の大陸棚にあると考えられている資源の開発をより速くスムーズに進めるためであったと思われる。

 歴史確認型は、今年2月のエストニアとの領土問題解決で、ロシアが主張する領土を事実上全て獲得した(拙稿「ロシアとエストニアの領土問題解決 北方領土への影響は?」参照)。実は同じ内容で、2005年に一度妥結していたのだが、エストニア議会がエストニアの主張の根拠となっている1920年のタルトゥ条約の有効性を条文に盛り込もうとしたため、ロシアが激高して白紙に戻されたという経緯がある。2月の合意では、エストニアは歴史問題を不問とし、だからこそ成立が可能となったのだ。この成立後、ロシアのラブロフ外相はロシアの歴史認識が再確認されたと言うと共に、北方領土問題も歴史認識の問題と位置づけた。ロシアは、歴史認識が関わる領土問題については、絶対に譲らない姿勢を貫くことを考えると、北方領土問題の展望も明るいとは言えない。

 加えて、2008年のグルジア紛争や直近のクリミア編入で用いた大義名分「自国民保護」ないし「ロシア人保護」も日本にとってより厄介なものとなりつつある。北方領土には現在約1万5000人のロシア人が居住しているが、ロシア政府は近年、北方領土発展計画を進めており、来年末までには人口を3万人まで増やす計画だという。それが実現すれば、ロシアが守るべき自国民は益々増えてしまい、日本にとってはより不利な状況となる。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部准教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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