世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年5月27日

 ジョゼフ・ナイ教授とラッド前豪首相が、4月19日付ワシントン・ポスト紙掲載の論説で、東シナ海での日中対立を緩和するためには、1972年の田中・周恩来方式の知恵に戻ることが最良であり、尖閣諸島の海洋環境保護地区指定や東シナ海ガス田共同開発再開から始めるのも良い、と述べています。

 すなわち、世界の注目はウクライナに集まっているが、東シナ海では不毛な島嶼群を巡り、日中間の対立が連日のように続いている。この危険な対立は19世紀末に由来するが、2012年9月に中国で大規模な反日デモが発生したのは、日本政府が三つの小島を個人から買い上げたためである。

 1972年の沖縄返還は、1945年以来米国の施政下にあったこれら島嶼群を含むものであった。返還の数カ月後の日中国交正常化に際し、田中総理が周恩来首相に対しこれら島嶼について質問したところ、周首相は、この問題で国交正常化を遅らせるよりも後世に委ねるべきだと答えた。両国は主権を維持したのである。

 この方式は数十年に渡り機能した。日本が施政権を維持したが、中国船が法的立場を維持するため領海内に時折入った。日本側は時に中国人船員を拘束したが、直ぐに釈放していた。海底の石油・ガス資源に関する誇張された情報により懸念が高まったこともあるが、日中両国が東シナ海のガス田共同開発の枠組みに合意したのは2008年であり最近のことである。

 2009年には、日本の民主党の大掛かりな議員団が訪中している。しかし、2010年9月には中国のトロール船が日本の監視船に二度に亘り衝突する事件が発生した。中国の再三の抗議に対し、日本側は船舶と船員の引き渡しに同意したが、船長を起訴した。中国は日本に対するレア・アースの輸出を突然停止し、輸出再開には、船長釈放後2カ月近くが掛かった。中国の政府関係者は、船長が起訴された以上、日本の法令と主権を認めることに繋がるため、中国側に他の選択肢は無かったと述べている。

 中国人の目には、2010年の逮捕と2012年の購入で、日本が周・田中の現状維持を破壊したと見える。中国は日本が右翼的な軍国主義的ナショナリズムの時代に入っていると考え、島嶼の購入も、第二次大戦後の決着を切り崩す意図から出たものと信じている。2012年以来、中国の船舶が日本の主張する領海内で継続的に行動している。皮肉なことに、このような中国側の行動が日本のナショナリズムを煽っている。悪循環が続いており、リセット・ボタンを押せる機会は見えていない。

 12月に安倍総理がA級戦犯も祭られている靖国神社を参拝し、燃える火の中に新たな燃料が投げ込まれた。我々は、何十年にも亘り日中関係をフォローしてきたが、日中関係がこれほど悪化したことは、過去半世紀近くの間、無かったと言える。

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