ちょっと寄り道うまいもの

2009年6月5日

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 岸和田は工業団地や町工場も入り交じる、大阪のベッドタウンである。有名なだんじり祭の時でもなければ、観光客などあまり縁がないだろう、ふつうの生活の場である。

 その岸和田に、それも駅から歩けば20分ではきかない住宅地まで出かけたのは、五百円玉でおつりが来る、お好み焼きのためだった。

 私もカレーライスやラーメンについて、何冊も本を書いているような物好きであるから、人のことは言えない。そう自覚しつつ自分以上だと呆れる物好きの旧友がいる。たこ焼きについて20年以上調べ、書き、今では日本コナモン協会の会長をしている熊谷真菜(くまがいまな)さんである。

 コナモンは粉もん。うどんからお好み焼き、たこ焼き等々のコナモンが大阪をはじめとする関西は豊かで、と今さら説明の必要もないか。降水量などの関係で、稲作よりも麦に適した瀬戸内のような後背地があり、それが江戸時代から大阪に集められていたことがその背景か。コナモンと相性の良いウスターソースが関西でよく発達したことも関係するように思われるが。

 そのコナモン協会会長に、面白いコナモンを食べさせてと頼んだら、岸和田の住宅地に連れて行かれた。それも路地裏の小さい店。普通の民家の一部を改装して、店にしたようなところ。近所の中高生が小腹を満たすために立ち寄るような店。

 最近、新しもの好きの間で注目のコナモンが始まった店……なのだという。お好み焼きに、かしわ、つまり鶏肉と牛脂のミンチを入れて焼くから「かしみん焼き」。生地も薄めにして、ひっくり返して焼くから、表面はぱりっと、中はしっとりの食感が特徴的。

 お好み焼きに一般的な豚三枚肉などのうまみとはまた違う、牛脂の独特の甘さみたいなものが、ソースと相まって、ユニークな味わい。

 もともと、お客はご近所さんという店だったから、客も気軽に「これ入れてみて」とメニューにない注文を付けていた。まあ、お好み焼きの具の組み合わせは自由といえば自由である。わがままを許す大らかな気性もあったか。

 わがままな「工夫」の一つがかしみん。それが評判になり、他の客も「食べさせて」と、広まっていった。最初に注文した客も、「それってオレだよね」と自覚しているという物語。徐々に評判を呼び、真似をする店も出る。テレビや雑誌も取材にやって来る……ということで、名物になりつつある。なるほど、このようにして新しい名物が生まれたのかと興味深かった。

 ただ、その元祖の一家は、少々お疲れである。メディアの相手にも、それを見て来る客のために、常連さんの足が遠のくのにも。

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