2024年11月26日(火)

Wedge REPORT

2008年12月20日

column:日本の他給率戦略 カギを握る商社

日本の注文を受けてくれる海外農家は確実に減少している―。本文中にある大手商社幹部の発言が示唆する状況の背景は何か。

世界の穀物需要が増大し、穀物価格も高止まりし始めた今、手間もかからず病虫害にも強く、それでいて単収増も見込める遺伝子組み換え(GM)作物を生産する農家が増え続け、消費者が求める非遺伝子組み換え(ノンGM)作物を確保することは容易ではない。この状況に追い討ちをかけるのが、中国産を始めとする外国産を毛嫌いし、極度なまでに国内産に拘る消費者の“ブランド志向”だ。金に飽かせて海外から安価な食料を輸入すれば事足りるという状況ではもはやなくなりつつある。

では、どうすれば日本が求めるものを安定調達することができるのか。 その選択肢の一つとして挙げられるのが、本文中にある海外での農地の確保だ。ブラジルの農場での生産を手がける三井物産食料リテール本部大豆・菜種室長の塚原慶一氏は、商社が生産を手掛ける理由としてこう語る「最大の狙いは日本へいかに安定供給できるか。そのためにも商社が農業生産に参入し、世界の食料需給の安定に関与する必要がある」。

同社は2007年11月、ブラジルの農業法人・シングー社の筆頭株主となり、日本の全耕作面積の2%(東京23区の1.6倍)にあたる約10万ヘクタール(現在は12万ヘクタール)の農地を確保。日本や欧州向けの大豆の生産を手掛けている。「仮に日本への大豆の供給が不足したときでも、筆頭株主ゆえに優先的に作ってもらえる」。塚原氏は今回の決断の意義をこう語る。

だが、商社が生産に踏み込むには、カントリーリスクや天候リスク、生産管理リスクなどさまざまな“リスク”がある。事実、1970年代に日本の商社は、海外での農業事業に参入しては失敗を繰り返してきたが、その背景には、いつもこれらのリスクがつきまとってきた。今回のプロジェクトについて塚原氏は、「天候を含めた地形的好条件や技術革新、ノウハウのあるシングー社との良好な関係にあることが、過去とは異なる点」と、リスクが軽減できていることを強調する。さらに「ブラジルのカントリーリスクは低く、ブラジル国内では全ての大豆を消費できないほど豊富にあるため、輸出規制の可能性も小さい」(同氏)と言う。

そのうえで塚原氏は「実際に画を描き、餅もとれた。今後はその『餅』をいかに大きくするか」との抱負を語る。もちろん、同社のプロジェクトの成否は中期的に見ていく必要があろう。現時点では、過去に例がないほどの好条件に恵まれているからだ。また、こうした条件を満たす場所は「いくらでもあるわけではないが、ないこともない」(同氏)。つまり、石油など他の資源と同様に農地も有限なのだ。同社の取組みを水平展開するには、海外での農業生産で培った技術力の応用なども考えられるが、農業はその国の政策と密接に結びつく産業であり、やはりカントリーリスクは無視できない。

他の大手商社で同様の動きが広がらない背景もそこにある。日本の消費者の嗜好が今後も変わらないとすれば、日本の他給率を向上させるために、国としていかなる戦略を持つのか、残された時間は少ない。


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