2024年4月23日(火)

Wedge REPORT

2014年6月20日

 もとより、国家が、保有する国際法上の権利を、条約上または憲法上の制約で、もしくは政策上、行使しないということはありうる。たとえば、いずれの国も国際法上、同盟を結ぶ権利を保有しているが、スイスのように条約上それが禁止されている場合や、オーストリアのように憲法上禁止されている場合には、同盟の権利を行使することはできず、中立を維持しなければならない。しかし、スウェーデンや他の多くの非同盟諸国は、中立主義を維持する国際法上の義務はなく、単に政策的にこれを採用しているのである。日本の場合、集団的自衛権について、これを制約する条約上の義務はなく、憲法上も、これを禁止する規定はない。

 内閣法制局は、憲法「解釈」上、その行使は認められないとしてきたが、憲法から内在的に引き出される解釈論的根拠は何も示されていない。法制局によれば、集団的自衛権の行使は、「必要最小限度」を超えるものだからというが、論理が倒錯している。「必要最小限度」というのは自衛権行使一般について国際法上「必要性・均衡性」が要件となるということであって、個別的自衛権であれ、集団的自衛権であれ、その行使は「必要最小限度」でなければならない。集団的自衛権の行使だけが必然的に「必要最小限度」を超えるということではない。逆に、「必要最小限度」の範囲であれば、個別的自衛権の場合と同様、集団的自衛権の行使は許容される、ということである。

自衛権行使の容認判断は政策的な問題

憲法第9条とそれをめぐる解釈
FUJIFOTOS/AFLO(鈴木善幸)、時事(ほか3人) 拡大画像表示

 集団的自衛権の行使を禁止する条約も憲法規定もなく、憲法解釈からもそれが内在的に根拠付けられないとするならば、これまで集団的自衛権の行使を認めてこなかったのは、政策的観点からそうしてきたものと言わざるを得ない。したがって、今日、行使容認に踏み切るかどうかは、基本的には政策的な問題である。実際、報告書も指摘する通り、日本政府は、自衛権について数次の政策変更を行ってきた。

 1946年の制憲議会における吉田茂首相答弁では一切の自衛権を放棄するとしていた。これは当時日本が占領下にあって主権を制限されていたから、当然と言えば当然のことであった。日本が主権を回復した後の54年には、自衛権は主権国家として固有の権利であるとして従来の立場を変更した。56年に日本は国連加盟を果たし、国連憲章の当事国となって以来、憲章51条に規定される個別的および集団的自衛の権利の両者を区別なく享有することは、明らかである。

 集団的自衛権は「保有」するが「行使」できないという政府方針が固まるのは72年の国会審議の過程においてである。この問題を国会で鋭く追及したのが社会党の水口宏三議員であった。その議論は次のように要約される。


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