権利を「保有」するが「行使」できないという「蟻地獄」的な解釈が定着した集団的自衛権。憲法9条に自衛権に関する明文規定がない以上、新たな憲法解釈の表明により権利の行使は可能になる。
今回公表された安保法制懇第2次報告書は、2008年の第1次報告書を補完するものである。6年を経て、日本をとりまく安全保障環境は一層厳しいものになってきており、第1次報告書で指摘した問題を、一層丁寧に解説することが今回の報告書の目的だったと言えよう。
憲法と集団的自衛権をめぐる従来の解釈論争は、歴代の政府・内閣法制局が、その場凌ぎの答弁を重ね、従前の答弁との辻褄合わせに終始してきたため、その見解は今や「蟻地獄」の様相を呈している。しかもこうした状況を、日本の法学界では「アートの絶品」などと賞賛するような雰囲気があり、未だ不毛な神学論争に明け暮れる学者の間に、国家の安全保障に対する当事者意識や責任感覚が希薄なことは誠に嘆かわしく、深い失望を禁じ得ない。
今、われわれに必要なことは、この「蟻地獄」から脱却して、虚心坦懐に憲法9条を読み返すことである。安保法制懇報告書は委員全員が長時間にわたり真摯な議論を展開するなかで纏め上げた文書であり、私としては、読者がその内容を、色眼鏡なしで、検討して下さることを切に望むものである。この懇談会の正式名称(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)が示す通り、そこでの検討の中心は法律論であり、政治論ではない。法律論については、何よりも冷静な議論が必要とされるのである。
周知の通り、憲法9条には、自衛権に関する明文規定はない。他方、日本は、国連憲章の当事国であり、その51条に規定される「固有の個別的および集団的自衛の権利」を保有することには異論がない。国際法上、ある権利を「保有」しているのであれば、これを「行使」することが認められるのは言うまでもなく、保有しているが行使できないという説明には、誰しも戸惑いを隠せない。