増大する中国のミサイル戦力に対応する方法は、INF条約を修正して、米ロの欧州における中距離ミサイルの配備は禁止し続けるが、アジアでは認めることではないかと、米戦略予算評価センターのモンゴメリー上席研究員が、7月2日付 National Interest誌ウェブサイト掲載の論説で述べています。
すなわち、米ロが1987年のINF条約で射程距離500~5500キロの弾道および巡航ミサイルの実験と配備を禁止している間、中国はINFの禁止対象となっているミサイルを大幅に増強し、ロシアの潜在的脅威となっていると同時に、米国が東アジアで中国のミサイルの脅威に対抗するのが困難になりつつある。
このような中国に対抗するためには、1)INF条約を破棄する、2)INF条約に中国を参加させる、ことが考えられるが、1)はロシアの中距離ミサイル配備に歯止めが効かなくなり、2)は中国が参加しそうにないことから、良い選択肢ではない。
第3の案は、これまであまり真剣に議論されていないが、INF条約を修正して、米ロの欧州における中距離ミサイルの配備はいぜんとして禁止するが、アジアでは認めることにするというものである。
事実INFの当初の交渉時に、ソ連はアジアでの中距離ミサイルの一部の保持を望んだが、米国が反対した経緯がある。今日の戦略的状況の下では、アジアで中距離ミサイルを認めることで、欧州での軍事バランスを崩すことなく米ロが中国のミサイル増強に対抗できるし、同時に中ロがあまり接近しないよう図れることになる。
軍備管理の主張者は、検証が一層困難になるので、この案は実行可能でないと言うだろう。アジアの米同盟国は、自国内に米国のミサイルを、そして近隣にロシアのミサイルを望まないかもしれない。欧州の米同盟国は、アジアに配備されるロシアのミサイルがいつか欧州に向けられると懸念するかもしれない。中国は数の優位を保つため、そのミサイル戦力を急速に拡大するかもしれない。
しかし、これらの懸念はいずれも思ったほどではないかもしれない。たとえば中国の軍事力が増大し続け、中国が強気に行動し続ける場合、日本やフィリピンといった同盟国は、中国を対象とした米国のミサイルを自国内に、ロシアのミサイルを近隣地域に受け入れるようになるかもしれない。また中国は対抗措置としてミサイルをさらに増強するかもしれないが、米ロ二大強国を相手に軍拡競争を始めるのを望まないかもしれない。
多分、一番重要なのは、まさに中国が理由となってINF条約が修正されそうだとなると、それだけで中国が苦境に立たされることだろう。もし中国が何もしなければ、中国の最大の優位が崩れることになる。他方で、中国が軍事力強化を加速させれば東アジア全域を反中にしかねない。そこで、中国は米ロの配備を避けるため、INFの包括的禁止ではなくとも、自身のミサイル戦力の量的、質的規制を交渉するかもしれない。