2024年4月25日(木)

【緊急特集】エボラ出血熱

2014年10月18日

 米CNNの報道によると、アメリカ国内感染2例目の看護師は、エボラ感染が確認された前日(10月13日)に航空機に乗っていた。搭乗の際、微熱があるとの申告を受けたが、熱が規制値まで高くないとして搭乗を制止しなかった。その後、16日になってCDCは「10日の段階で発症していた可能性も否定できない」と情報を修正。看護師の接触者の調査対象を拡大している。感染症における体温の上昇は、体内でウイルスが増殖していることを意味する。エボラ患者の発熱として定義された「38.6度」に達する前に、患者は感染力を持たないのか。何度の発熱をスクリーニングの際の定義とするのか。症状は微熱だけで、感染リスクの高まる下痢・嘔吐などの症状はなかったのか。当局の発表すら錯綜しており、不安はつのる。

エボラウイルスは「変異」している?

 今回のアウトブレイクに限って拡大しているのはなぜか、という問いがある中、エボラの遺伝子変異に関する報告が一流の専門誌に上がり始めている。

 たとえば、今年9月、『サイエンス』誌にハーバード大学のグループが発表した論文*(詳細は文末参照)によれば、現在、西アフリカで流行しているエボラ株は、2004年に中央アフリカでアウトブレイクを起こしたウイルス系統のもの。人や動物との間で感染を繰り返しながら、ギニアを経由してシエラレオネに到達する間に、多くの遺伝子変異を起こし、「人から人へうつりやすい性質」に変化を遂げている可能性があるという。ただし、巷間取り沙汰されている「エボラは空気感染する」という仮説に今のところ証拠はなく、エボラは接触感染のままだと見てよい。歴史的に見ても、接触感染が空気感染になるなど、感染様式そのものを変化させるほどの大きな遺伝子変異を遂げたウイルスは確認されていない。

 日に日に騒ぎは大きくなっているが、現在の先進国における状況は、単に「エボラの散発例が確認された」というだけ。しかし、今後は、たったふたつの条件がそろうだけで、事態は「アウトブレイク」と呼ばれる状況に発展していく。

 そのひとつは、医療者ではなく、一般人の間で二次感染が起きること。現在、エボラで想定されている感染様式や臨床経過では、感染初期に患者を隔離すれば、一般の人の間で次々と感染者が出る可能性は低い。それなのに、感染が起きたとなれば、感染様式や感染力に関する評価そのものがゆるぎ、対策そのものの正当性が問われることになる。

 もうひとつは、ある国のある地域に限定された報告ではなく、全土で感染者が報告されるようになることである。テキサス州の中だけで感染者が出ている分にはまだよい。これがアメリカの他の地域の、特に一般人の間で感染者が報告されたとなれば、警戒すべき拠点が増え、管理はより難しくなるだろう。

 ある感染症が限定した地域でアウトブレイクするのではなく、先進国を含めてグローバルに流行することを「パンデミック(世界的大流行)」と呼ぶ。歴史上、パンデミックを起こし、多くの死者を出したウイルスはインフルエンザだけ。2009年の新型インフルエンザのパンデミックでは、幸いなことに当初の予想よりも病原性が低く、広がるだけ広がったが、季節性インフルエンザ並みの被害で終わった。しかし、エボラは致死率が極めて高く、病原性の高いウイルスであることはすでに疑う余地がない。

 ヒトからヒトへと移りやすい性質に変化を遂げているエボラウイルスは、パンデミックのポテンシャルを持つ。欧米各国は、検疫や病院での早期発見体制を確立し、医療従事者の安全を担保して、エボラの「早期封じ込め」に成功するのだろうか。新型インフルエンザが病原性の低さに助けられたように、接触感染という比較的うつりづらい感染様式に助けられて事態は収束するのか。

 日本では、飛行機の往来の少ない西アフリカでのアウトブレイクを、同情の混じったのんびりした気持ちで見ていた。しかし、アメリカや欧州の各地で感染が広がり、アウトブレイクとなれば、日本への感染拡大のリスクも一気に増す。

 先進国が自国内でのアウトブレイクの阻止に失敗すれば、それは一国とエボラとの戦いから、「人類」とエボラの戦いへと大きくフェーズを変えることを意味する。

 今が正念場だ。

※前回記事「日本上陸も秒読み!? 米国人看護師感染の意味」はこちら

*注:
Stephen K. Gire et.al. Genomic surveillance elucidates Ebola virus origin and transmission during the 2014 outbreak, Science 12 September 2014: 1369-1372.Published online 28 August 2014

  
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