「ウクライナは最後ではない」
プーチン演説に透けるロシアの危機感

プーチン大統領が描く21世紀の世界(後篇)


小泉悠 (こいずみ・ゆう)  財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に『ロシア軍は生まれ変われるか』(東洋書店)。ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

メディアから読むロシア

(画像:iStock)

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前回に引き続き、ヴァルダイ会議におけるプーチン大統領の演説を紹介したい。前回紹介したのは、冷戦後、自らを「勝者」と自認する西側がそのリーダーシップを適切に用いなかったことが「イスラム国」の台頭など現在の世界の混乱を招き、国家主権など従来の国際システムが形骸化しているというプーチン大統領の指摘であった。

「米中二極体制は『見せかけ』に過ぎない」

 では、これに対してロシアは今後の世界をどのように見ているのだろうか。

 引き続きプーチン大統領の発言を引いてみよう。

Getty Images News

端的に申し上げるならば、一極世界というのは、人民及び諸国に対する独裁を正当化する手段に過ぎません。一極世界があまりに不快で、重荷で、自称「世界の指導者」にさえ手に負えないものだということが分かったのです。(中略)

であるからこそ、この歴史的転換点において、見せかけの擬似二極体制をもう一度作り出そうとする企みは、米国の指導権を永続させるための隠れ蓑に過ぎないのだと我々は見なすのです。米国のプロパガンダにおいては、誰が「悪の枢軸」の地位を占めていようと問題ではありません。かつて、これは主敵であるソ連でした。今後はそれが、核技術を取得しようとしているイラン、世界最大の経済圏となった中国、あるいは核超大国であるロシアということになるのかもしれません。

我々は今日、世界を分裂させ、新たな分断線を引き、互いを敵対させ、冷戦時代のような敵のイメージを作り出し、そしてこうした中で指導権(あるいは独裁権)を持とうとする試みを目にしています。我々は今では皆、このことを理解し、知っています。(中略)

要するに、我々はこの新たな変わりゆく世界において、おなじみのグローバル支配を再構築しようする試みを目にしているのです。

 ここで注目したいのは、「二極体制」は「見せかけ」で擬似的なものに過ぎないという指摘である。当然、プーチン大統領の念頭にあるのは、いわゆる米中二極体制のことであると考えられる。中国を新たな仮想敵とすることは、冷戦期のイミテーションのような国際秩序を作り出し、それに対抗する勢力としてアメリカを中心とする旧西側の秩序を維持するものに過ぎない、ということだ。

 もちろん、そこには中国が西側と対等の立場で二極体制が作られれば、ソ連ほどの国力を持たないロシアは完全に新秩序の枠外で周辺的な地位に置かれてしまうかもしれないという危機感も透けて見えよう。

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著者

小泉悠(こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に『ロシア軍は生まれ変われるか』(東洋書店)。ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

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