2024年4月25日(木)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年7月9日

 もちろん、良質の雇用は政府の政策対応だけで生み出されるわけではない。堅固な経営基盤と長期にわたる成長力を持った企業が増えることも不可欠だし、就業機会の増加や賃金上昇につながる余地を高める教育水準の向上も欠かせない。要は、「良質な雇用」を大量に生むための、トータルとしての日本の戦略が問われているのである。

厳しい雇用情勢をチャンスに転じろ

 雇用悪化を止めることが先決な状況で、「良質な雇用」を大量に生むことまで気にすることは、余りに先走りし過ぎていると見えるかもしれない。しかし、雇用問題の根治療法には大きな課題をいくつも解決しなければならないだけに、足元から手をつけていかなければならない。

 たとえば、医療や介護、あるいは待機児童がいる大都市圏での保育所など明らかに雇用を生み出せる成長業種でも、財源問題などから雇用をなかなか増やせないでいる。一方、今後とも少子高齢化が進む中では、高齢者や女性の労働力率を一層高めていくことが不可欠で、そのためには高齢者や女性が就業しやすい職種や職場を増やすことも待ったなしである。

 将来、人口減少が進めば雇用問題は好転するとの見方もあるが、それは楽観的に過ぎるかもしれない。下手をすれば、良質な雇用機会を生み出せず、失業率がなかなか下がらない上に、国民の平均賃金のさらなる低下を余儀なくされる事態もありうる。世界的な経済危機があるとしても、人口減少下で失業率が過去最高を更新しかねない現状が、将来を楽観視できないことを如実に物語っているとも言える。

 足元の厳しい雇用情勢は、景気が良いときであれば思い至ることの少ない、多くの施策の必要性を改めて浮き彫りにした。ぜひ厳しい雇用情勢をチャンスに転じて、生かすことが必要である。

 

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