日本人技術者を買う中国企業

『日本人の値段』


中村宏之 (なかむら・ひろゆき)  読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。福島支局、立川支局、経済部、政治部、ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスクを経て2014年より現職。著書に『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』『御社の寿命』、(いずれも中央公論新社)など

オトナの教養 週末の一冊

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本書を一読して、これほどまでに多くの日本の技術者が中国を中心とした海外に渡っているのか、ということを知り驚いた。中国の技術水準の向上などのニュースに接する時などに関連して言及されるために、こうした日本人技術者の存在は知ってはいたが、これほど多いとは。2000人とも3000人ともあるいは5000人いるかもしれないが、本当は何人ぐらいいるのかおそらく真相は誰にもわからないだろう。だがそれがどんな数字であっても、相当大きな数である。

 しかも多くが日本のメーカーでばりばり働いていた仕事熱心な技術者である。そうした人たちの頭脳や技術を借りれば中国メーカーにも当然、恩恵は大きいはずである。

 日本企業が時間とカネをかけて営々と築いてきた技術に追いつくために手っ取り早いのが人材を引き抜くことである。彼らに高額な報酬を支払ったとしてもペイするからこそ、中国企業は日本の人材を活用するのである。人材を買うことで日本に追いつく「時間」を買っているともいえる。

大半が一流企業出身の人々

 14年間の中国在住経験があり中国ビジネスに精通している著者は、現地の中国企業で働く多くの日本人技術者を訪ね歩き、話を聞く。綿密な取材の積み重ねがこうした実態をつぶさに明らかにする。

<驚いたのは、まずその大半が日本の一流企業出身の人々だったこと。直接存在を確認できただけでもSONY、東芝、日立、三菱自動車、三菱重工業、コマツ、パナソニック、シャープ、住友電気工業……>

 この記述をみて、筆者(中村)も衝撃を受けた。いずれも我々のような経済記者が日々取材する日本を代表する大企業ばかりである。

 リストラや所属企業での過酷な勤務など転職の理由は様々だが、多くの人が日本企業にいても十分活躍できる能力をもっていた技術者たちである。そういう人たちが中国に渡り、グローバル競争で日本企業のライバルになる企業にどんどん再就職している。恵まれた給与のほか、住居、送迎の車、年間数回の日本への帰国費用など他の様々な恩恵を多く受ける人も少なくない。

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「オトナの教養 週末の一冊」

著者

中村宏之(なかむら・ひろゆき)

読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。福島支局、立川支局、経済部、政治部、ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスクを経て2014年より現職。著書に『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』『御社の寿命』、(いずれも中央公論新社)など

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