オトナの教養 週末の一冊

2015年4月3日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 ヘッドハンターによる技術者への接触の様子をめぐる記述なども生々しい。筆者自身は当然のことながらヘッドハンターなどとは全く無縁の世界にいるが、水面下で繰り広げられるヘッドハンティングの現場の雰囲気がリアルに伝わってくる。

 自分の持つ能力や技術に信頼を寄せた外国の企業からそれを生かしてくれるように頼まれ、条件面でも魅力的な内容を提示されたら、たとえ言葉に自信がなくとも、多くの人が転職になびく気持ちは理解できなくもない。

優れた技術者をなぜ抱えていられないのか

 なぜ日本人技術者は中国でもてるのか。まじめに仕事をやる、周囲に合わせてチームワークを大切にすることも理由だろうが、本書でも指摘するように安全性や信頼性にかける技術者の熱意が中国人とは比べものにならないからだろう。だが長年、基礎研究を積み重ねて、辛抱強く細かな工夫を重ねる日本の伝承技術は、たとえ多くの人材を呼び寄せたとしても中国にはなかなか伝わらないのではないかという本書の指摘には納得させられる。

 本書を読んで感じるのは、業務分野の選択と集中、人件費の削減に代表されるコストダウンや世代交代などそれぞれの経営上の様々な課題があるにせよ、優れた技術者をどうして日本企業は抱えていられないのかという点である。もちろん職業選択の自由もあるし、アメリカのように条件のよい職場を選んで人材が流動化することもあるのだろうが、このままでは技術者魂を持った人材は中国などに流れ、いずれ日本と肩をならべる、あるいは場合によっては日本製品を凌駕する高度な製品が生まれ日本企業を苦しめることにならないか。しかもそれは既に始まっているのでないか。中国企業は良い人材を確保するためならおそらく何でもありだろう。日本企業は現在のような定年制度や従業員の処遇を続けているだけで、果たしてグローバル競争に対応してゆけるのか。本書を読んでこうしたことも考えさせられた。

  
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