2024年4月24日(水)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年8月20日

 ではどうすればよいのか。実は、そう難しくない。それは、安心や生活第一などの政策では、バラマキ的か成長戦略かは紙一重だからである。特に、供給過剰需要不足の日本では、成長戦略は供給サイドばかりではなく、財政を痛めることなく需要を構造的に引き上げるところにもあると言うこともできる。

経済成長につなげるために必要なこと

 すなわち、子育て支援をやるからには、中途半端に終わらせず、増税をしてでもプラスサムの経済成長に寄与する出生率回復や女性の労働力率向上といった成果に結びつければよい。安心社会実現を追及するにしても、安心の広がりが、国民が将来不安のために過剰に抱えていた貯蓄の一部を消費に回すことにつながれば立派な成長戦略となる。

 このことは、そもそも成長戦略として打ち出されている低炭素革命でも同様である。低炭素革命がいくら立派な成長戦略でも、実現しないことには意味がない。そこで、低炭素革命を成果の挙がる成長戦略にするためには、電気自動車や太陽光発電といった環境対応製品を徹底的に普及させ、真のエネルギー革命を興すに尽きる。

 当然のことと思われるかもしれないが、電気自動車の急速普及にはエコカー減税などの補助金や減税措置だけでは足りない。充電サービス・ステーションを全国に急速に整備させるといったインフラ整備も合わせて行うことが不可欠である。太陽光発電を大きく普及させるためにも、発電所で発電して各企業・家庭に供給するという現在の集中型発電システムを改め、各家庭や企業が発電所になるという分散型発電システムを国全体として早急に実現させることが大きな効果をもたらす。当然、このためには太陽光発電の普及だけでは不十分で、送電システム等にも大きな変更が必要となる面がある。

 麻生首相は「全治3年だからあと2年やらせてほしい」「自民党はパイを大きくしてから政策を打つことを申し上げている。民主党には成長戦略がない」と発言している。しかし、累次の経済政策を打っても景気が十分に回復せず財政赤字の拡大が目立ってしまった90年代の経験を踏まえれば、自民党の成長戦略も、結果としては従来型のカンフル的景気対策にとどまり、このままでは「安心」政策を長期的かつ安定した経済成長につなげる発想は乏しいようにも見える。

 民主党のマニフェストにも、自民党のマニフェストにも実に多くの種が仕込まれている。それは社会を安定させる種であり、国民を安心させる種であり、そして成長の種である。大事なことは、これらの種を具体的に実現させることにある。

子ども手当も教育無償化も「手段」に過ぎない

 そもそも政策がバラマキ的と国民に強く認識されるばかりでは、何のための子ども手当か教育無償化かも分かりにくくなる。また、大きな目的が、国民の生活に安心と豊かさをもたらすことであり、社会保障充実や出生率回復を通じて経済成長する内需主導型経済なのであれば、消費税引き上げの有無といった手段に余りにこだわるのも本末転倒である。さらに、政策を実施するからには、国民の信頼を得ることも忘れてはならない。たとえば、財源措置がしっかりとしていなければ、政策の持続性にも疑問がつきやすい。

 総選挙でマニフェストの信認を受けるのであれば、選挙用だけの「見せ金」ならぬ「見せ政策」は止めてほしいし、しっかりとプラスの成果をもたらすまで実行してほしい。それは、しっかりと最終目的を明示し、その効果を挙げるまで政策を拡大発展させ、国民の信頼を得ていくこと、これに尽きよう。こうすれば、日本経済の内需中心の安定成長やデフレ脱却、雇用吸収力のある産業発展はおのずと実現していく。今回のマニフェスト選挙には、その後の展開も含めて大いに期待したい。

 

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