中東では信じられないようなことが起こることは、長年この地域の情勢をウオッチしてきた者にとっては珍しいことではない。この“疑惑”もそうした類いの話なのかもしれない。内戦中のシリアのバッシャール・アサド政権と過激派組織イスラム国(ISIL)が裏で手を結び、反政府勢力つぶしに協力し合っているというのだ。
劣勢が伝えられていたイスラム国は5月、イラク西部のアンバル州の州都ラマディ、シリア中部の世界遺産都市パルミラを相次いで制圧。これまで死んだふりをしていたのではないかと思われるほどの攻勢ぶりを示し、オバマ米政権を慌てさせている。そうした中で今度は6月初めから、政府軍と反政府勢力が激戦中のシリア最大の都市、北部のアレッポに向けて進撃を開始、反政府勢力を背後から攻撃している。
悪魔とも手を結ぶ
アサド政権とイスラム国の共同軍事作戦
イスラム国はこれまでのところアレッポ北東の数カ所の村落を制圧、アレッポとトルコ国境の間に位置する戦略的な要衝、アザズの攻略に集中している。アザズはトルコからの反政府勢力の補給路の拠点で、「イスラム国がこの町を制圧すれば、アレッポの支配権を得ることになる」といわれる重要な町だ。
問題は、このイスラム国の攻勢に、アサド政権が手を貸している疑惑が濃厚になっている点だ。反政府勢力などによると、まずシリア政府軍の戦闘機が反政府勢力の陣地を攻撃、さらに長距離砲で砲撃した後に、イスラム国の戦闘員が進撃するという「明らかな共同軍事作戦」だ。反政府勢力の指導者は「アサドは戦闘機をイスラム国の空軍として配備している」と非難、閉鎖中のシリアの米大使館もツイッターで、政府が同組織を支援しているのではないかと強く批判した。
両者が協調するのは、反政府勢力を弱体化ないしは排除することが互いの利益になるからだ。アサド政権はイスラム国に対抗し得る唯一の正当な勢力であると主張できるし、イスラム国側も“領土拡大”という果実を手に入れることができるからである。
元々、アサド政権とイスラム国が裏でつながっているといううわさは絶えなかった。実際、イスラム国はシリア軍に対して、石油を大量に密売していることが分かっている。前線を超えてイスラム国のタンクローリーがシリア軍側に出入りするところが日常的に目撃されている。またイスラム国は占領した発電所からの電気もシリア軍に売っていることも知られている。