過激派組織「イスラム国」の台頭、シリアの内戦など紛争の続く中東で、国家なき民族、クルド人の存在があらためて焦点になってきた。混迷の先に、彼らが長年夢見てきた「クルド独立」のチャンスはあるのか。
フセイン政権下
バクダットのキャバレーに多数いたクルド人女性
イラクの首都、バグダッドの夜は暗い。サダム・フセイン政権時代、その暗闇の通りに「アンバサダー」というキャバレーがあった。そこの女たちはほとんどが離婚したクルド人だった。少数民族として弾圧されて続けたからだろうか、表情には一様に陰りがあった。彼女たちの1人がそっと漏らした一言が忘れられない。「自分たちの国がほしい」。
クルド人の存在は日本人にもさほど知られているわけではないが、3000万という、国家なき民族としては世界最大の勢力だ。古代から現在のトルコ、イラク、シリア、イランの4カ国にまたがる山岳地帯を主に居住地としている。言語はペルシャ語に近いクルド語、ほとんどがイスラム教スンニ派だ。
第1次世界大戦後、オスマントルコの分割を決めたセーブル条約でいったんはクルド人の独立国「クルディスタン」の樹立が決められたが、近代トルコの創設者であるケマル・アタチェルクが猛反発し、約束は反故にされ、その後今日まで、各国の弾圧を受けながら“2級市民”としての扱いを受けてきた。
この中で最も自治が確立しているのはイラク北部のクルド人だ。2003年の米軍の侵攻後に「クルド自治政府」が発足し、ようやく自分たちの権利を行使できるようになった。このイラクのクルド人はフセイン政権時代には化学兵器で攻撃され多数が残虐に殺された。トルコでは長年、米国もテロ組織と指定する「クルド労働者党」(PKK)が反政府活動を続けてきた。
現在、最も脚光を浴びているのは、シリアのクルド人勢力である。6月以降、イスラム国が占領していたトルコ国境の要衝、テルアビヤドを制圧したのをはじめ、村落を次々にISから奪還した。この作戦には米軍が猛爆撃で支援、4日朝から5日朝までに26回の空爆を実施し、シリアでの1日当たりの空爆としては過去最大となった。