WEDGE REPORT

2015年8月12日

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 米軍がトルコの基地からシリアの過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆を開始する中、ISが預言として信じる”ハルマゲドン(最終戦争)” の前哨戦「ダビクの戦い」が現実のものになってきた。

終末思想が活動の底流に

 「ダビク」という地名を聞いたことがあるだろうか。シリア北西部のトルコ国境に近い人口4000人にも満たない町の名前である。現在はISに占領されているが、同組織の機関誌の名前と言った方が通りがいいかもしれない。戦略的にもさほど価値のないこの町が今、対イスラム国戦争で焦点として急浮上しているのだ。

イスラム教徒の聖地、エルサレムにある岩のドーム(iStock)

 ISにとって「ダビク」は特別に意味のある決戦の地である。イスラムの預言ムハンマドの言行録によると、「ローマの軍」がダビクの地で野営し、イスラム軍と衝突する。「ローマの軍」は80の軍旗を掲げた大部隊だが、イスラム軍が打ち破り、イスラム帝国の領地拡大につながる。しかしイスラム軍はその後の戦いで敗北。そしてエルサレムに追い詰められ、背教徒軍とのハルマゲドン(最終戦争)に奇跡的に勝利する、というのが大まかな筋書きだ。「ローマの軍」とは十字軍と言い換えてもいいだろう。

 この「ダビク」の勝利は一方で、この世の終わり、終末へのカウントダウンでもある。イスラムでは、この世はアッラー(唯一神)によって創造され、またアッラーによっていつの日か滅ぼされる、という終末思想がその根底にある。全イスラム教徒は終末の天変地異の中、神の前で「最後の審判」を受け、天国と地獄に振り分けられることになる。こうしたことから「ダビクの戦い」はISにとっては最終的な勝利につながる象徴的な意味を持っているわけだ。

 ISが昨年8月、ダビクを占領した時、彼らのツイッターなどソーシャル・メディアは喜びで沸き返った。そして敵である米主導の有志連合の参加国が60カ国に達した時も「ローマの軍の80の軍旗」と重ね併せ、伝承に近づいたと狂喜した。ISの前身組織の創設者であるアブムサブ・ザルカウイもかつて「ダビクで十字軍を焼き尽くす」と述べており、ダビク信仰と終末思想はまたたく間にISの末端の戦闘員にまで広がった。

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