WEDGE REPORT

2015年9月23日

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石川迪夫 (いしかわ・みちお)

原子力デコミッショニング研究会長

1934年生まれ。東京大学工学部卒、工学博士。57年日本原子力研究所入所。日米独が共同実施した事故時の燃料棒挙動実験に参加。同東海研究所副所長、北海道大学教授、日本原子力技術協会理事長などを歴任。

 原子力規制委員会による規制基準の強化で、電力会社が追加した安全対策は少なくとも総額約2兆5000億円に上るという。規制委・原子力規制庁と電力会社との長い長いやり取りの末に施された安全対策は、真に原子力発電所の安全性を向上させているのだろうか。

 結論から言えば、世界一厳しければ良いという規制委の思い込みから作成された規制基準はバランスに欠け、全体の安全性を損なう可能性すらある。典型的なのは、東京電力福島第一原発事故の後に整備された防潮堤だ。それをも越える高い津波が押し寄せれば、防潮堤は充満した海水を守る貯水池として逆に働く。津波だけなら波が引くまでの時間を耐えれば良いが、防潮堤のせいで排水に余計な時間がかかり、事故対応が阻害される。

想定外に対応する

 福島事故が教える教訓は何か。それをはっきりさせないで正しい規制基準を導くことはできない。福島事故の原因は、未曽有の大津波によって発電所全体が電力を失う全電源喪失状態に陥り、しかもその状態が想定を超えて長く(約10日間)続いたことだった。まさに想定外が現実のものとなった。

 それなのに、新しい規制基準で議論されていることは、この「想定」を引き上げることばかりだ。防潮堤を築く、活断層の認定を厳しくする、基準地震動を引き上げる……。重要でないとは言わないが、福島事故が教えてくれたのは、自然災害はどれだけ想定しても存在する想定外に対しても、対策を準備しておくことの大切さである。

 それにはまず、自然災害が持つ脅威を検討評価し技術的対策を立てることだ。想定以上の地震に耐えた耐震設計がお手本と言える。その上でさらに、それを超える最悪の事態に対して準備する。つまり、全電源喪失状態が長く続き、炉心溶融が起きてしまっても、周辺地域に深刻な放射能汚染を及ぼさないようにできれば良い。この点についても、福島事故が大切な教訓を与えてくれる。

 原発から遠い飯舘村も含むような広大な地域が避難を要するほど汚染されたのは、3月15日の放射性プルーム(放射性雲)が原因だ。

 東京電力が発表した、敷地内の正門付近における放射線量の変化(下図)を見てみると、14日深夜を境に100倍ほど上昇している。14日深夜とは、2号機の格納容器から、溶融炉心の放射能が直接空気中に放出された時刻である。

福島第一原発 正門付近の放射線量変化 (出所)東京電力のデータをウェッジが加工。 『考証福島原子力事故 炉心溶融水素爆発はどう起こったか』(電気新聞) を参考にした
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 測定された放射線量は、たびたび急激に上がるが一時的で、しばらくするとあるレベルに落ち着くという形を繰り返している。原子炉から漏れた放射能は風により移動し、また空気中に広く拡散されて薄まるからだ。この落ち着いた線量レベル(以降、背景放射線量と呼ぶ)が重要で、これが周辺地域の汚染レベルを決める。

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