安保激変

2015年10月27日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 中国が南沙諸島で岩礁を埋め立てて建設中の人工島周辺12海里(約22キロ)に、アメリカが海軍艦船と航空機を派遣したと報じられている。国際法上、人工島には12海里の領海を主張することができないが、中国は人工島を「領土」とみなしている。これに対し、アメリカは中国の主張は公海における航行の自由を脅かすものとして牽制している。アメリカが海軍の派遣を決定したのは、中国の領有権の主張を認めず、公海での航行の自由を守る強い決意を示すためだ。

10月26日、米国防当局者は、米海軍が横須賀基地に配備しているミサイル駆逐艦「ラッセン」が、南シナ海で中国が造成した人工島から12カイリ(約22キロ)内に派遣したと報じた。(写真:ロイター/アフロ)

 中国は南沙諸島の領有権を主張しているが、実際には7つの拠点を押さえているに過ぎない。しかも、それらのほとんどは満潮時には海面下に沈んでしまうため、国際法上領有が認められる陸地ではない。にもかかわらず、中国はこれら岩礁の上に、観測施設などを建設してきた。そして、ここ数年はこれら拠点の大規模な埋め立てを行い、人工島の建設に力を注いできた。

 中国が大規模な埋め立てを始めたのは、自らが「歴史的権利」を主張する南シナ海の支配を目指し、軍事拠点を築こうとしているためと考えられる。特に、中国は南シナ海に浮かぶ海南島に戦略ミサイル原子力潜水艦を配備し、この国際海域を対米軍事戦略上の拠点と見なしている。長距離核ミサイルを搭載した戦略原潜によるパトロールはすぐにでも開始されるとみられ、中国は南シナ海上空に飛来するアメリカの偵察機からこの原潜を守らなければならない。このため、人工島に監視施設や飛行場を建設し、米軍の接近を阻む態勢の確立を急いでいるのだろう。

 また、中国はオバマ政権の対中姿勢を弱腰と判断し、人口島を建設してもオバマ政権が物理的にこれを阻止するとは考えなかったはずだ。他方、次期アメリカ大統領は対中強硬姿勢を取る可能性があるため、オバマ政権の間に可能な限り南シナ海の拠点作りを終えることを目指していると考えられる。特に、有力候補であるヒラリー・クリントン前国務長官は、5年前に南シナ海における航行の自由をアメリカの国益と公言したため、中国側では警戒心が高まっている(現時点では予期せぬドナルド・トランプ氏の人気に当惑しているようであるが)。

 実際、当初オバマ政権は中国が人工島を建設していることを公には批判せず、水面下で中国に懸念を伝えるに留まっていた。また、最近アメリカ上院の公聴会で、2012年以降アメリカ海軍は建設が進む人工島の周辺に近づいていないことが明らかになった。おそらく中国との摩擦を避けたいオバマ政権が認めなかったのだろう。

 しかし、埋め立ての規模が拡大し、あらゆる軍用機を運用可能な3000メートルの滑走路の建設が始まるに至り、アメリカはCNNなど各メディアを通じて中国の埋め立て活動を国際社会に公開し、圧力を加えるようになった。同時に、アメリカ軍からは、人工島周辺12海里での「航行の自由作戦」の承認を求める声が高まった。オバマ大統領は9月に訪米する習近平国家主席との直接対話によって事態の沈静化を狙ったようだが、結局話し合いは平行線に終わり、「航行の自由作戦」を承認したと伝えられている。

 「航行の自由作戦」は、アメリカ政府が1970年代から行っているもので、沿岸国が国際法上認められない過剰な管轄権を主張する海域や空域に艦船や軍用機を派遣し、管轄権を認めないことを示すものである。たとえば、旧ソ連は領海内で外国艦船の無害通航権を制限していたが、アメリカ海軍は敢えて無害通航を実施し、無害通航権を認めさせた事例がある。

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