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2015年11月26日

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木村正人 (きむら・まさと)

ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任。2012年独立。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)

 中国の国家主席、習近平が10月19日から23日の日程で英国を公式訪問した。英国メディアは習の一挙手一投足をつぶさに報じた。しかし、昨年の香港民主化デモと同様、民主主義や人権については触る程度に懸念を示しつつも、正面切った批判は慎重に避けた。かつて7つの海を支配した大英帝国は第一次、第二次大戦を経て崩壊した。

 英中「黄金時代」の仕掛け人、英国の財務相のジョージ・オズボーン(44歳)は次期首相の最有力候補である。国際金融都市ロンドンを擁する英国が習の経済圏構想「一帯一路」と人民元の国際化を後押しし、米中・米欧関係のブローカー役を果たす構図が少なくとも今後10年は続くだろう。

 中国は国際社会で孤立するのを防ぐため、国家主席と首相が交代で頻繁に欧州に足を運んできた。米欧の間にくさびを打ちたいという中国の深慮遠謀もある。一方、地理的に遠く離れた欧州にとって中国は安全保障上の脅威ではない。英国もずっと中国との経済関係を強化したいと望んできた。

 しかし、第二次大戦から続く米国との「特別な関係」を気遣い、中国べったりのドイツやフランスに比べ、遅れを取ってきた。2008年の世界金融危機をきっかけに中国が人民元の国際化に本腰を入れるまで、英国は後回しだった。だから英政界も、ビジネス界も、金融街シティーも英中「黄金時代」の幕開けを手放しで歓迎している。

 チベット弾圧で大騒ぎになった08年北京五輪の聖火リレーへの妨害を振り返ると、習の訪英に対する抗議活動は隅に追いやられた印象だ。中国人留学生による歓迎のカネや太鼓、竜や獅子の舞いがチベット亡命者らの抗議の声を圧殺した。国際人権団体によると、中国人留学生に配布されたTシャツや中国国旗は中国から在英中国大使館に送られてきたものだという。移動用バスも用意され、20ポンド(約3700円)程度の日当が支給されたという話すらある。

 「中国は本当に力をつけました。1999年の江沢民、05年の胡錦濤が訪英した際には、これだけ多くの中国人留学生はいませんでした」。留学生だった時代から英国で暮らす台湾人女性ジャーナリストは声を落とした。中国人留学生は在英中国大使館の動員には逆らえない。逆らえば、将来どんな不利益を被るか分からないからだ。

今月9月、英中首脳会談に先立ちオズボーン財務相は中国を訪問。新彊ウイグル自治区にも足を運んだ (画像:PRESS ASSOCIATION / AFLO)

英中蜜月に異を唱えたのは少数派

 天安門事件で拘束された英国在住の中国人民主活動家ら3人が抗議活動を行って逮捕され、家宅捜索でパソコンが押収されたニュースも報じられた。しかしメディアのスポットライトは、きらびやかな儀装馬車のお出迎え、バッキンガム宮殿での豪華な晩餐会、首相官邸や別邸での首脳会談、パブ懇談、原子力発電所の設計・建設を含む中国の投資400億ポンド(約7兆4800億円)に当てられた。英中首脳会談は蜜月そのもの、波風一つ立たなかった。

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