桐生知憲の第四社会面

2015年12月3日

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教範はどこから持ちだされたのか?

 渡した文書は普通科部隊、つまり歩兵部隊の戦術などが書かれた教範。防衛省によると、駐屯地内の書店で販売されているが、外部に持ち出すことは禁じられている。特定秘密や防衛省の機密指定にあたるものではないという。ただし、この教範の中には、アメリカ軍との連携など戦術の機微に触れられている部分もあり、純粋に自衛隊の戦術についてのみ記載されたものとは言い難い。

 Iは教範をKに渡した時点では、すでに防衛省を退職しており、直接入手できる立場にはなかった。では、誰がIのもとに教範を届けたのだろうか。先にも触れたが、Iは関東方面のトップにまで上り詰めた幹部自衛官である。長い自衛隊人生の中で多くの部下を持った。Iは豪快な性格で、自衛隊内では「軍神」という異名で呼ばれていた。豪快な性格に加えて、部下を半ば暴力的に従わせる一面もあったとのことで、Iに「忠誠」を誓った人物もさぞかし多かったろうと推察される。

 Kに手渡された教範は1冊だったが、Iの手元には今も3冊が残っているとされる。つまり、持ち出し禁止のはずの教範が合計4冊、外部に漏れてしまったというのだ。 ある1冊は現役の自衛官からIの元腹心だったOBに手渡され、またある1冊は別のOBが駐屯地内の売店で購入し、またまた別の1冊はIと男女関係が噂される女性現役自衛官が駐屯地の図書館から持ち出し、最終的にIのもとに集まったという。この女性現役自衛官に至っては、Iに対し「取り扱いには注意してね」とメールで釘をさしていたのだ。

あまりにゆるすぎる… 自衛官の情報管理意識

 そして、最も問題なのが現役の自衛官で、しかも陸将という高位にある幹部自衛官からIに渡った教範だった。外事一課はこの陸将からIが入手した教範がKに渡ったと見ているのだが、いくら特定秘密や極秘ではないしろものとはいえ、日本の国防を預かる自衛隊の、しかも幹部自衛官がいとも簡単に持ち出し禁止のブツを外部に出すとは…。驚きを通り越して、これで国防は大丈夫なのかとあきれてしまう。

 Iの事情聴取が今年上旬にあった際に、ある捜査関係者は「IとKを立件することが対ロシアへの牽制になるのであり、防衛省・自衛隊の問題にはしたくない」と漏らしていた。しかし、Iの携帯電話などを調べていくうちに、自衛官のあまりにもゆるすぎる情報管理を目の当たりにし、「関係者はすべて書類送検する」(別の捜査関係者)ことになったという。

 これには、防衛省側も驚きを隠せないようだ。当初、ある防衛省関係者が「持ち出し禁止といっても、極秘でもなんでもない文書。一部は黒塗りになるが情報開示を請求されれば公開されるもの」と語っていたように、立件は難しいと高をくくっていたふしがある。仮に、IとKが立件されたとしてもOBがやったこととして済ませてしまおうという雰囲気もあったという。ところが、捜査の大詰めで現役陸将の関与が明らかになり、警察に軍配が上がる形勢だ。余談ではあるが、防衛省・自衛隊の管理の甘さとして、この教範がインターネットのアマゾンで販売されていたことも付け加えておく。

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