反テロで協調を狙うも
ロシアが背負う新たな脅威

トルコ軍によるロシア機撃墜で広がる余波


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部准教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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2015年11月13日にパリで発生した同時多発テロは世界に大きな衝撃を与えた。同テロは、ISIS(「イスラム国」。ISILとも)が犯行声明を出しており、また、さらなるテロの計画についても言及していることから、各国で警戒感が広がっている。今回のテロがISISに対する空爆への抗議の要素が極めて強いことからも、ISISに対する空爆に参加している諸国には特に大きな緊張が走っている。

 そして、それら諸国の中でも、9月からシリアへの攻撃を弛まず続け、報復措置も受けているロシアの警戒感は特に強いと言える。

画像:iStock

パリ同時多発テロ前夜のロシアとISIS

 ロシアは9月末からシリアに対し空爆やカスピ海からの巡航ミサイルによる攻撃を続けているが(ただし、ロシアはISISに向けて攻撃をしていると主張している一方、欧米諸国はロシアが標的にしているのは主にシリア国内の反アサド派であると批判を続けてきた)、それに対する報復として、10月31日に、シナイ半島上空で、ロシアのサンクトペテルブルクに向かっていたロシア航空会社「コガリムアビア」のエアバスA321が機内に持ち込まれた爆弾によって墜落し、乗客乗員224名が全員死亡する事件が起きた。

 同事件についても、ISISの傘下テロ組織「シナイ州」が犯行声明を出し、ロシア側は最初、テロの可能性を否定していたものの、様々な検証結果から、爆弾による空中爆破による墜落であることがほぼ間違いなくなり、ロシア当局としても本事件をテロと認めざるを得なくなった。そこで、11月6日には、ロシアのウラディミル・プーチン大統領が同国とエジプトを結ぶすべての旅客航空便を当面の間、運航停止にすると発表した。

 ロシア当局にとって旅客機事故をテロと認めることは大きな痛手であった。何故なら、テロから国民を守れないことは政府の失策となる上に、そのテロがシリア空爆に対する報復だということになれば、国民の支持を集めていたシリア空爆への反対論が高まる可能性もあったからだ。そのため、事件の直後からテロの可能性の高さを重々承知しつつも、ロシア政府は同事件がテロだったという断定を避けてきた。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部准教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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