2015年11月13日にパリで発生した同時多発テロは世界に大きな衝撃を与えた。同テロは、ISIS(「イスラム国」。ISILとも)が犯行声明を出しており、また、さらなるテロの計画についても言及していることから、各国で警戒感が広がっている。今回のテロがISISに対する空爆への抗議の要素が極めて強いことからも、ISISに対する空爆に参加している諸国には特に大きな緊張が走っている。
そして、それら諸国の中でも、9月からシリアへの攻撃を弛まず続け、報復措置も受けているロシアの警戒感は特に強いと言える。
パリ同時多発テロ前夜のロシアとISIS
ロシアは9月末からシリアに対し空爆やカスピ海からの巡航ミサイルによる攻撃を続けているが(ただし、ロシアはISISに向けて攻撃をしていると主張している一方、欧米諸国はロシアが標的にしているのは主にシリア国内の反アサド派であると批判を続けてきた)、それに対する報復として、10月31日に、シナイ半島上空で、ロシアのサンクトペテルブルクに向かっていたロシア航空会社「コガリムアビア」のエアバスA321が機内に持ち込まれた爆弾によって墜落し、乗客乗員224名が全員死亡する事件が起きた。
同事件についても、ISISの傘下テロ組織「シナイ州」が犯行声明を出し、ロシア側は最初、テロの可能性を否定していたものの、様々な検証結果から、爆弾による空中爆破による墜落であることがほぼ間違いなくなり、ロシア当局としても本事件をテロと認めざるを得なくなった。そこで、11月6日には、ロシアのウラディミル・プーチン大統領が同国とエジプトを結ぶすべての旅客航空便を当面の間、運航停止にすると発表した。
ロシア当局にとって旅客機事故をテロと認めることは大きな痛手であった。何故なら、テロから国民を守れないことは政府の失策となる上に、そのテロがシリア空爆に対する報復だということになれば、国民の支持を集めていたシリア空爆への反対論が高まる可能性もあったからだ。そのため、事件の直後からテロの可能性の高さを重々承知しつつも、ロシア政府は同事件がテロだったという断定を避けてきた。