ロシアが、2001年の米国同時多発テロ後の「テロとの戦い」を目的とした米露蜜月、NATOとの関係強化に代表される、世界との関係強化という漁夫の利を再び得たいと期待しているのは間違いない。
また、17日の発表に先立ち、ウィーンで行われたシリア和平を目指す多国間外相級協議では、ロシアの和平案が事実上採択され、シリアの政権移行を半年で行う合意も成立していた。このことからも、シリア問題でロシアがかなり主導的な立場を維持していることもわかる。米国が約1年シリアに空爆してもほとんど効果がなかったのに対し、いろいろな批判はあるものの9月末からのロシアによる対シリア空爆がそれなりの効果を出してきたことに鑑み、中東情勢ではロシアの方が米国より立場を強めたことは間違いない。
そして、11月18日、ロシアはISISをはじめとするテロとの闘いにおける協力に関する新たな決議案を国連安保理に提出した。同案文では「ISISとの闘いおよび各国の協力の必要性に大きな力点が置かれている」という。
これに先立ち、ロシアはこれに先行する反テロの大連合を目指す決議案を9月30日に安保理に提出していた。それは、プーチン大統領が国連総会での演説でISISやその他のテロ組織と闘うために世界が大連合を組んで協力するよう呼びかけた2日後のことであり、ロシアがシリア空爆を開始したその日でもあった。だが、その決議案は英米仏が難色を示したことにより、採択は阻まれたという。それでも、ロシアは決議案の「再度提出」を試みつづけるという。
なお、フランスも独自のテロ問題に関する決議案を作成し、それを受けて国連安保理は11月20日に、パリ同時多発テロを非難し、ISISと「あらゆる手段で戦う決意」を表明する決議案を全会一致で採択した。この動きに対してロシアは強く反発しており、各国が決議案を出すのではなく、早急に世界がISISに対して団結すべきだと主張し、ロシアの決議案を主張し続けるとしつつも、ISIS対策での国際連携を重視し、フランスによる決議案には反対しなかった。
一方同じく11月18日に、ロシアのラブロフ外相は、シリア内戦終結と政治移行を目指す反体制派などとの協議を来年1月までに開始したいという考えを発表した。
同日、フィリピン訪問中のオバマ米大統領は、シリア内戦の終結と政治的移行を目指す外交的取り組みでロシアを「建設的なパートナー」と評価し、シリアのアサド大統領の去就に関しては米露間の大きな溝がある一方、それが克服できれば米露の協力拡大の可能性が高まるとも述べた。
こうして「反テロ」の国際的連帯においては、ロシアが主導的立場を取れる可能性が出てきたかに見え、同時に、ロシアがウクライナ問題で失った国際関係が改善していく可能性も生まれたように見えた(だが、後述のように、その雰囲気は長くは持たなかったのだが)。ロシアは、多国間の対シリア対策で主導権を握れば握るほど、ウクライナ問題での欧米の制裁を緩和できると見ていたといってよい。11月16日には、これまで断固拒んできたウクライナの債務返済の繰延を容認する考えを突然、何の前触れもなく発表して世界を驚かしたが、その行動も、ウクライナ問題での諸外国との軋轢を緩和したい動きの一貫だと思われる。