解体 ロシア外交

2015年11月25日

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テロの脅威の増大と問われる対応

 このように、パリ同時多発テロで、ロシアは多くの外交カードを得たかに思えるが、ロシアがさらなるテロの被害を被る可能性が高まったのも事実だ。

 パリ同時多発テロが起こる前日の11月12日までに、ISISのメディア部門はロシアに対する攻撃を警告するビデオ声明をインターネット上に公開していた。その声明は、プロパガンダ映像を背景に「近いうちに血が海のようにあふれ出るだろう」「ロシアは死にかけている」とロシア語で好戦的な歌を流しているが、英語の字幕付きであり、ロシアのみならず、世界に発信しようとしている意図は明らかだ。

 そして、テロの脅威はパリ同時多発テロでさらに現実味を帯びた。11月20日には、国際テロ組織アルカイダ系のイスラーム武装勢力「アルムラビトゥン」によるホテル襲撃事件が起き、ロシア人6人を含む19人が犠牲になる事件が起き、アルカイダ系テロ組織がISISに対抗して起こしたテロとも見られており、世界にテロの波が広がっている。

 加えて、ロシアがシリアでの攻撃を拡大したのを受け、報復が計画される可能性が高まった中、11月17日に、ロシア原子力庁は「テロ警戒の一環として、原発の安全管理や施設の警備を強化した」と発表し、ロシア全土の原子力発電所においてテロに対する警備態勢を強化した。また、国内のテロ対策も強化しており、たとえば、11月22日にも、ロシア国家テロ対策委員会が同国南部のカバルディノ・バルカル共和国の首都・ナリチクで対テロ作戦を実施し、ISISに忠誠を誓っていた武装勢力の11人を殺害したと発表した。加えて、ロシア政府はこれまでにもまして、国境管理や移民管理を厳重に行うとしており、そのことは中央アジアからの出稼ぎ労働者にとっては打撃となるだろう。

 実際、ロシアの主要都市や原子力発電所などで、テロが起こされてしまえば、ロシアの対外的、対内的威信は地に落ち、ロシア国民も不安にさいなまれ、ロシア政府に対する支持も低下する可能性がある。ロシア機に対するテロについては、エジプトのセキュリティ対策不足という言い逃れができても、ロシア国内でテロが起きれば、それはプーチン政権にとって大きな痛手となる。ロシアとしては、何としてもテロを防がねばならないのである。現在、ロシアが背負ったテロ対策への重荷は限りなく大きいと言えそうだ。

 また、ロシアにとって、ロシア主導でISISを壊滅できることが、国内外共に名声や支持を高めるための最善のシナリオであるが、現在、ISISをとりまく状況は極めて複雑であり、ISISを壊滅させるために世界が一枚岩になれないが故に、それが困難となっているという図式もある。イスラーム教シーア派のイランは、スンニ派のアラブ・中東諸国とは相容れない前提がある一方、イランとイラクはロシアとの関係を緊密化している。他方、ロシアはシリアのアサド政権を支持しており、アサドをなんとしても引き摺り下ろしたい欧米諸国とシリア国内の反アサド派とは対立関係にある。そして、シリア隣国のトルコも、ISISの壊滅を望みつつも、同時にクルド人問題を抱えており、シリアではクルド人勢力を攻撃しているという事実もある。それに、欧米としては対ISISでまとまるといっても、ロシアに主導されることには我慢がならない背景もある。このように、対ISISで国際的な連携が生まれるためには様々な障壁があるのである。

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