解体 ロシア外交

2015年11月25日

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パリ同時多発テロ発生後のロシアと
ウクライナ問題への利用

画像:iStock

 そのような中で起きたのがパリ同時多発テロである。パリ当時多発テロは、ロシア機事件の決着のつけ方で頭を痛めていたに違いないロシア当局にとっては渡りに船になったと思われる。フランスのような欧州の先進国でもテロを防げなかったという事実はやはりテロの被害国となったロシア政府を安心させ、また、世界が「反テロ、反ISIS」で一致団結する雰囲気が高まったことは、対シリア攻撃などロシア政府の政策に対する批判をもみ消す効果を持ち得たといえるだろう。

 そして、11月17日になって、プーチン大統領はやっと公にロシア機墜落を、爆発物を用いたISISによるテロと断定する発表を行ったのだった。当初、イワノフ大統領府長官が「原因解明には相当長期の調査が必要」だと述べるなど、ロシア当局が事件の結論を明示する時間稼ぎをしていたことが明らかであることからも、筆者は17日のテロとの断定宣言にはパリ同時多発テロの影響が大きいと考える。

 プーチン氏は16日深夜に、トルコで開催されていた20カ国・地域(G20)首脳会合から帰国した直後に、安全保障関係の閣僚による会議を招集し、連邦保安局(FSB)のアレクサンドル・ボルトニコフ長官に調査結果を報告させた。同長官は、乗客の荷物や機体の残骸を調査した結果、ロシア国外で製造されたと見られる手製爆弾(のちに、ISISが同型の手製爆弾の写真を公開)の痕跡を確認し、TNT火薬に換算して1kg相当の爆発があったとみられるとし、テロだと断定できると報告した。

 そして、この報告を受け、プーチン大統領は17日に墜落事件をテロだと断定する発表を行い、同時に、報復として対シリア空爆を強化する方針も明らかにし、ISISを壊滅するために、主要国の協力を強化する必要を訴えたのだった。加えて、プーチン氏はテロ実行犯を必ず見つけて訴追すると断言した上で、捜査の徹底を指示し、それを受けてFSBは有力情報には5000万ドル(約61億円)の報奨金をだすとウェブサイトで発表した。

 ただし、エジプト側はまだ同事件をテロだと認めていない。同事件がテロだとなれば、エジプトの飛行場のセキュリティの甘さが証明されることとなるだけでなく、観光業が痛手を被ることも間違いなくなることから、エジプト経済への悪影響も極めて甚大となる。そのため、エジプトが同事件をテロだと認めたくないのは、ロシア以上であることは間違いない。ロシア機が出発したシャルムエルシェイク空港の職員二人を、爆弾を仕掛ける幇助をした疑いで拘束したという報道も、エジプト当局は否定している。

 ちなみに、ウクライナ問題による欧米による制裁とルーブルの暴落により、ロシア人の海外旅行先は大きく限定されるようになり、チャーター便が用意されたこともあって、エジプトのシャルムエルシェイクは最近のロシア人の人気観光先の1位を占めていた。このことから、本テロの衝撃はエジプトにとってもロシアにとっても大きな意味を持った。

 こうして、ロシアはテロとの断定を表明してからは、より一層、国際的な対テロ協力を求めるようになった。ウクライナ問題で国際的に孤立していた中で、国際的に「反テロ」で協調できれば、ウクライナ問題から諸外国の目をそらせ、欧米諸国との溝を埋められるという思惑も間違いなくあるだろう。このようなことから、ロシアにとってパリ同時多発テロは多くの利益や機会を与えてくれたと言えるのである。

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