10月16日付のウォールストリート・ジャーナル紙で、キッシンジャー博士が、中東の秩序を救うためには戦略的な思考が必要であり、当面はISの打倒を最優先にすべきである、と述べています。
時期尚早な対イラン宥和政策
すなわち、中東の地政学上の枠組みが崩壊している。シリアでのロシアの一方的軍事行動は、中東の秩序を安定させる米国の役割が瓦解していることを示すものだ。
イランの問題はその二重性にある。イランは領域国家であると同時に、地域覇権を求めて、非国家主体のヒズボラ、ハマス、ホーシーを組織し指導している国家である。湾岸諸国はISよりイランを恐れている。湾岸諸国はイランの勝利にならないような形でISを打倒したいと思っている。この両面感情はイラン核合意によって一層深まった。多くの国が米国はイランの覇権を黙認することになったと理解している。
複雑化する地域情勢と米国の中東からの後退がロシアの軍事行動を可能にした。ロシアの懸念は、アサド政権の崩壊によりISがシリアを制圧し、そのテロ活動がロシアのイスラム地域に波及してくることにある。ロシアは無期限にアサド政権の維持が必要とは考えていない。
米国はすべての当事者の考えを満たそうとするうちに、事態を主導する能力を失ってきている。今やあらゆる国と対立または問題を抱えている。
今や対イラン政策が米国の中東政策の中心になっている。米政権はイランの過激派支援や核合意違反に対しては厳しく対処すると言っているが、同時に交渉によりイラン外交を転換させることには熱心である。現在の対イラン政策は、ニクソン政権の対中政策と比較されているが、それは正しくない。1971年の米中和解はロシアの覇権に反対するという共通の利益があったが、米イラン間にはそのような戦略上の合致はない。
また、米中双方の「期待」は対称的だったが、イランは核合意実施後、直ちに目的を達成するのに対し、米国は長期にわたってイランが約束した行動によってしか利益を得られない。米中合意により中国の政策は直ちに転換したが、イランについては世界との経済交流などによりイランの政策が変わるだろうという楽観的な仮説を前提としている。