西アフリカのマリの首都バマコで発生した高級ホテル襲撃事件は国際テロ組織アルカイダの分派によって引き起こされたが、過激派組織「イスラム国」(IS)によるパリの同時多発テロが引き金になった公算が強い。その背景には過激派世界の熾烈な功名争いやライバル意識がある。
ジハードの指針
20日朝、武装集団が「アッラー・アクバル」(神は偉大なり)と叫んで同地の高級ホテル「ラディソンブル」を襲撃、外国人宿泊客ら約150人を人質に取って立てこもった。これに対してフランス軍の特殊部隊の支援を受けたマリの治安部隊が突入。銃撃戦の末、容疑者2人を射殺し、夜までに制圧したが、ロシア人6人や中国人、米国人を含む外国人ら19人が犠牲になった。治安部隊は容疑者数人を追っている。
アルカイダ系の組織「アルムラビトン」が北アフリカのアルカイダ分派「サハラ首長国」と組んで実行した、との犯行声明を出した。「アルムラビトン」は米国務省が最も危険なテロ組織の1つとして指定するグループで、マリ北部やアルジェリア南部のサハラ砂漠などを活動拠点にしている。
欧米や中東のアナリストらによると、この襲撃はISによるパリの同時多発テロが誘因になっているのは明らかだという。同時多発テロは世界を震撼させたことでISから見れば、大きな成果になったが、ベイルート筋は「過激派世界の中でライバル関係にあるアルカイダは自分たちが依然、ISを凌ぐ力があることを誇示したかったのではないか」と指摘した。
ISの前身は「イラクのアルカイダ」という組織。2001年の米中枢同時テロ9・11を起こしたアルカイダが源流だ。同組織はその後、「イラクとシリアのイスラム国」を経て「イスラム国」となったが、ISが無差別の殺りくを繰り返し、これを諌めたアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリの命令を聞かなかったため、破門され、それ以降、両者は対立関係にある。
しかし過激派の世界では、アルカイダの目標でもあるイスラム原理主義国家「カリフの府」を早々と樹立し、欧米”十字軍”と真っ向から戦っているISの方がはるかに上の存在になった。中東・アフリカにはアルカイダの分派は存在するが、ザワヒリのアルカイダ本家はパキスタンとアフガニスタン国境に隠れ潜み、影が薄いこともアルカイダの評判を落としている。
こうした劣勢を挽回しようとして起こしたのが今年1月のパリの風刺新聞社シャルリ・エブドの襲撃事件だった。この事件はアルカイダの分派「アラビア半島のアルカイダ」がザワヒリの指令を受けて起こしたものだが、アルカイダの存在をあらためて認識させることになった。
しかし、パリの同時多発テロで再びISがその力を圧倒的に示したことにアルカイダは焦りを強め、フランス軍が過激派掃討で軍事介入しているマリのホテルに大規模テロを仕掛けた、との見方が有力だ。ただしこの事件では、襲撃犯が人質の中からイスラム教徒を解放するなどザワヒリが発布した「ジハード(聖戦)の指針」を守り、ISとの違いを際立たせる形になった。
この指針は、イスラム教徒を巻き込むことを最小限にとどめる、というもの。襲撃犯はイスラム教徒だという人質には聖典コーランの一節を復唱させ、イスラム教徒であることを確認してから解放しており、アルカイダの支持者らはツイッターで「これこそイスラム教徒の真の行動だ」と称賛している。