チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年10月22日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新日 : 毎週木曜

 2009年10月4日、中国の温家宝総理が北朝鮮を訪問、金正日国防委員長と会談し、北朝鮮が6カ国協議への復帰に前向きだとの成果を持ち帰ってきた。それに続く10月10日、北京の人民大会堂で行われた日中韓の首脳会談(鳩山由紀夫首相、李明博大統領)では、北朝鮮の意向を中国の温総理が説明。これが「中朝の信頼関係の象徴」とする報道が世界を駆け巡った。もちろん日本でも、中国が再び「北朝鮮への影響力の強い国」としての地位を取り戻したかのような報道が目立って増えた。

 だが中国で取材をしても、中国の対北朝鮮外交に大きな変化があったとの事実には一向に突き当らないのだ。北朝鮮外交に携わる中国の外交関係者にこの件で水を向けても、「今回の温総理の訪朝での成果? それは中国の総理を北朝鮮の総書記がわざわざ空港まで出迎えたということくらいでしょう」と素っ気ない。それ以外のことについては、「援助などは、北朝鮮との友好年と定めた今年の既定路線に従って淡々とやったというだけのこと。特別な意味はない」と語るのだ。

 中朝の「急接近」との表現に苦笑いを浮かべる外交関係者はまだ控えめだ。多くは「関係が良くなる要素なんてどこにもない」と極めて冷淡な反応を示す。

 「第一、基本的な構造は何も変わっていないでしょう。北朝鮮の核問題での交渉の主導権はどちらにありますか? 中国ですか、それとも北朝鮮ですか? 例えばいまみんなでお土産を用意して再び北朝鮮を6カ国協議に戻すことができたとして、北朝鮮の要求通りにならなければまた同じことの繰り返しになるだけのこと。それが成果なんですか? そういう気持ちがあるから、外交の現場には徒労感が満ちていますよ。事実、温首相に先立ち北朝鮮入りした武大偉外務次官は、『北朝鮮には行きたくない。こんな状態で行っても韓国のマスコミに面白おかしく書かれるだけなら意味はない』と漏らしたというくらいですから」(中国の外交関係者)

 中国外交部のOBも同じように語る。

 「そもそも中国は二国間協議など米朝の話し合いには反対してきました。それを妥協して現状追認してきたのが中国の対北朝鮮外交です。こうした悪い中朝関係が、以前と何も変わっていないからこそ、今回、温総理が帰国して間もないというのに北朝鮮は短距離ミサイルを発射するのだし、中国の方もそうした北朝鮮の態度にも何も感じなくなっているのです」

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