2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年2月5日

 常識的で、重要な正論です。社説の表題に「The intractable dilemma」とありますが、問題の本質を旨く表現しています。この問題に日米など関係国は過去20年対決してきましたが、北朝鮮は執拗に挑戦を続け全く解決の糸口が見出せていません。国際社会には疲労感さえ漂います。その間に北朝鮮の核能力が着実に進展しているのは大きなジレンマです。良くも悪くも、北朝鮮に最大の影響力を持つ中国の立場がジレンマを大きくしてきています。取りうるオプションも多くある訳ではありません。結局、圧力と対話の間で辛抱強く揺さ振っていくしかないのではないでしょうか。100%圧力でもうまく行かないでしょうし、100%対話でもうまく行きません。さらに交渉の梃(レバレッジ)を持つためには、一定の相互依存が必要です。ここ数年の状況は、圧力・対話の双方がやや不足していたのではないでしょうか。

 核不拡散については、理論的には次の三つの選択肢しかないと思います。第1は、南アフリカやイランのように、制裁など国際社会の圧力により当該国自らの決断あるいは交渉により核開発をやめさせることです。第2は、イスラエルによるイラクやシリア空爆のように、軍事的な攻撃により当該国の開発を止めることです。第3は、インド、パキスタンのように、新しい核の存在の下で生きることです。北朝鮮について、第1の選択肢が最も望ましいことは言うまでもありません。

 焦ってはいけませんが、時間がなくなっているのも事実です。交渉の引き延ばしの間に北朝鮮の能力は確実に発達し、問題解決の難しさはどんどん大きくなり、解決のコストも一層大きくなってきたのが現実です。あれから20数年の時間経過は確実に北朝鮮側の利益になってきました。

 今すぐにではないにしても、六カ国協議の再開か二国間協議を行うべきです。特に米朝間交渉と日朝間交渉が重要です。中国のほか、ロシアの影響力も利用していくべきでしょう。それは、二つの面で意味があります。一つは、危機管理です。北朝鮮が今や何らかの核兵器を保有していることは明らかで、その開発度や運用を知ると同時に、わが方の対応を知らせ、北朝鮮の核暴走を抑止することが必要です。二つ目は、非核化に向けての圧力です。北朝鮮に利用されるだけだとか、既に試みたことであり無益に終わるだろうとの批判はあるかもしれませんが、外交交渉にバーゲンは不可欠で、注意深くやる方が何もしないよりはベターなのではないでしょうか。

 イランが核交渉に乗ってきた大きな要因は、制裁による経済の疲弊がありました。北朝鮮貿易の9割を占める中国が対北朝鮮経済関係をもっと規制することが不可欠です。

 1月6日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、2014年12月のソニー・エンターテイメントに対する北朝鮮によるサイバー攻撃に対するオバマの対応が生ぬるかったとの批判を紹介するとともに、今回の核実験は韓国などの防衛政策にも影響を与えるだろうとしています。韓国は、対中配慮のため、THAADミサイル防衛システムの設置につき慎重な姿勢に固執してきましたが、前向きになるかもしれません。また、最近北朝鮮が潜水艦能力を高めているので、対抗のため潜水艦能力の強化にも積極的になるかもしれません。


  
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