2024年11月19日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年11月5日

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新日 : 毎週木曜

 中国国内で買い求めた大判の「四川省地図」を眺めながら、あるニュースについて考えている。わが国のメディアが、「歴史的な政権交代」に沸いていた本年9月初めに伝えられたニュース――四川省の省都、成都とチベットを結ぶ「川蔵鉄道(四川チベット鉄道)」敷設工事を、予定を前倒して着手――についてである。

凍土が解け、土台のひび割れが進む青蔵鉄道

 チベットへの鉄道といえば、2006年7月に開通した「青蔵鉄道(青海チベット鉄道:青海省の西寧からラサを結ぶ)」を思い出す向きも少なくないことだろう。

 現在、雲南省からチベットへの鉄道工事も既に着工されているので、近い将来、中国本土とチベットを結ぶ鉄道ルートが計3本も完成することとなりそうだ。

 青蔵鉄道について、巨費と長い年月をかけてこれを敷設した中国共産党政府の真の狙いが、漢人の移民の容易化や軍事目的、資源の収奪にあることは、最近ようやく日本人に知られつつある。しかし、06年の開通当時、日本のメディアはこぞって、この鉄道を「夢の天空列車」なる視点でのみ伝え、日本人の旅心を掻き立てることにのみ腐心した。このキャンペーンは大いに奏功し、07年に日本のある旅行雑誌が行った「今後、してみたい旅は?」とのアンケートでは、「青蔵鉄道でチベットに行きたい」がダントツとなり、実際、多くの日本人旅行者がこの夢の旅を実現した。

 ところが、昨年3月のラサ騒乱後、わが国での「チベット問題」の知名度が高まり、青蔵鉄道の開通の裏にある、中国政府の野望を理解する日本人も増えた。『チベット侵略鉄道』(集英社)なるショッキングな邦題が冠された、アメリカ在住ジャーナリストによるルポルタージュの日本語版も刊行された。同書は、中国政府の野望や周辺環境への悪影響のみならず、鉄道そのものの危険性も明らかにしている。鉄道敷設によって地面が熱を持つために、凍土は溶け、土台のコンクリートのひび割れが進んでいるというのだ。これを読んで、今さら背筋が寒くなった、と話す乗車経験者もいる。

雲南省、四川省から二重三重に「侵略鉄道」着工

 そんなチベットへのさらなる鉄道敷設工事が、予定の2011年から前倒しで着工されるという。そのルートを確認するために四川省の地図を見直したのである。


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