まもなく「中小企業金融円滑化法案」が成立する。せっかくの返済猶予をただの延命措置で終わらせないためにも、地域と企業が今なすべきことは何か? 第2回は、地元の強みを活かしたキラリと光る産業振興策を取る自治体や、地域に根付き事業再生や経営革新に尽力する全国でも評判の支援者たちを紹介する。(前回の内容はこちら)
大企業や工場の誘致を通じた自治体の中小企業支援では地域経済の地盤沈下は避けられず、既存の産業振興策の見直しが喫緊の課題である。
行政主導で看板産業を育てる
岡山県津山地域では、行政主導で地域の産業転換を行い、産業振興に取り組んでいる。かつて「県北の雄」と呼ばれ木材・製材産業が盛んだったこの地 域には、バブル崩壊以降、沈滞ムードが漂っていた。そんな中、1997年に津山市がステンレス加工業を地域のリーディング産業として明確に定め、産業振興 に乗り出した。
津山市と周辺5郡には、木材・製材やステンレスのほか、製紙、電気機械、食品、繊維の6つの産業が根付いており、そこから地域への特化度や集積度合い、域外から稼げるか、成長性等の指標を用いて絞り込んだ。域内400社のうちステンレス加工業を営むのは60社強。また津山市の工業出荷額1850億円のうち、ステンレス加工業は250億円規模でしかなかったが、市場では銅や鉄から軽量な非鉄金属への置き換えが進み、また衛生面の関心が高まるなか、錆びないステンレスには需要の増加が見込まれていた。
「従業員数30人以下の企業が7割を占め、単独支援では手に負えない。産業政策は、福祉や教育と違い、強いものを集中的に支援していくのが早道」とリーディング産業指定の意義を説くのは、つやま新産業創出機構の産業活性化チーフアドバイザー・藪木伸一氏。大手化学メーカーのOBで生産・設備管理の経験を買われ、97年から地元津山市の嘱託職員として産業支援に携わっている。
「強いものを育てる」という哲学はさらに具現化していく。ステンレス加工業者全てを支援するのではなく、加工工程の異なる中核企業10社を絞り込み、技術補完を目的とした共同受注グループ「津山ステンレスネット」を発足させた。藪木氏は、営業活動や人材育成、更には対話を重ねて地域代表としての動機付けが主な仕事。一方、顧客との交渉や仕事の割り振りなど、ビジネスに関する一切は、企業同士が責任を持ち引き受ける。ちなみに事務局は藪木氏と市の職員の2名。市からは人件費の支給が主で、活動経費は県や国からの500万~1000万円の補助金と会員の年会費で賄っている。