科学で斬るスポーツ

2015年2月9日

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玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

 プロ野球が一斉にキャンプインした。球春到来を感じさせるが、今シーズン大学院で学ぶ監督と投手コーチが就任したチームがある。福岡ソフトバンクホークス。工藤公康監督と吉井理人投手コーチはともに昨年4月、筑波大大学院の門をたたいた。東京大学大学院身体運動科学研究室で研究生を続けている桑田真澄氏、工藤監督らと同じ筑波大大学院に在籍する仁志敏久氏ら大学院で学ぶ元プロ野球選手は増えている。

 彼らが大学院で学ぶのは、根性論に代表される科学的根拠に基づかない練習、選手の将来を無視した起用、その結果としての野球肘、肩痛などの故障、自ら考えない受け身の姿勢の横行など日本の野球界に残る悪しき慣習を少しでも改善しようという意図がある。理論はすべてではないが、理論に基づく指導、練習法は選手の埋もれた潜在能力を引き出す可能性を秘めている。大学院で学びながら1軍投手コーチを兼任する吉井氏に、大学で学ぶ狙い、日米の野球界の比較、理論をどう指導・育成に役立てるのかなどについて聞いた。簡単な解説、コメントとともに紹介する。

吉井理人(よしい・まさと)
1965年4月20日和歌山県生まれ。県立箕島高校。1984年ドラフト2位で近鉄バファローズに入団。主に抑え役として活躍。95年にヤクルトスワローズに移籍して、先発に転向。3年連続10勝を記録、優勝に貢献した。98年から2002年まで大リーグのニューヨーク・メッツ、コロラド・ロッキーズ、モントリオール・エクスポズで活躍。03年からオリックス、ロッテでプレーし、引退。08年に日本ハム・ファイターズで1軍、2軍コーチを務めた。15年から福岡ソフトバンクス・ホークスの1軍投手コーチに就任。日本のプロ野球で、通算18年 89勝82敗62セーブ、大リーグ通算5年、32勝47敗。タイトルは最優秀救援投手(1988年)

「どう教えるか」学ぶことの重要性

 2008年に引退してすぐに、北海道日本ハムファイターズの1軍投手コーチに就任した。日米通算121勝(129敗、62セーブ)をしたが、選手に指導していて、この方法でいいのかとても不安だった。5年間で、1軍でのリーグ優勝2回(2009、2012年)など、結果としては残したが、それはまぐれの可能性もある。指導に理論の裏付けはなく、何も分からず、自分の感覚でしゃべっていたのが実情だった。

 実際、選手へのアドバイスが逆効果につながったこともあった。

 例えば、球速150kmをコンスタントに出していた若手投手に、「力んでいる。もっと力を抜いて投げたらどうか」とアドバイスした。しかし、選手は球威も、球速も140km台に落ち、コントロールまで悪くなってきた。選手の中で何か歯車が崩れたのだろう。さすがに2週間くらいたって、まずいと思ったので、元に戻していいと言ったが、戻らなかった。結局、その選手は1軍で活躍することはなかった。アドバイスの内容はたいしたことではないが、それを受けた選手がどういう状況なのか、理解できるのかなど考えて指導しなくてはならないと痛感した。

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