2024年5月8日(水)

科学で斬るスポーツ

2015年2月9日

日本の小学生は投げすぎ

 日本ではいまだに根性論に訴えている面があることは否めない。プロ野球でもそうだ。アップ段階での乳酸がたまるようなメニューはあまり意味がない。日本は全体練習をよくするが、大リーグはただの確認程度。休み方がうまい印象を持つ。

 昨年は、田中将大、ダルビッシュ有らの肘痛が話題になった。大リーグは投球数制限など投げさせないイメージがあるが、そうではない。きっちり投げ込みするときはやっている。大リーグのブルペン練習は10分~12分間と時間で区切られる。だいたい40球程度は投げるが、感覚、リズムを確認することが重視される。投げ足りないと思ったら、外野で投げ込む。日本人は遠投を好むが、面白いことにドミニカ人も好む。アメリカ人は遠投しない。ボールをリリースするポイント、投げる角度が違うというのが彼らの考え方だ。

 プロ野球に入って8年目に肘痛に見舞われた。今なら肘再建をする「トミー・ジョン術」をやるところだが、当時、この手術を受けたのは村田兆治さんくらいしかいなかった。メスを入れない保存療法を選択した。結局、完全に痛みが消えるまでは2年かかった。そのとき、コンディショニングトレーナーの立花龍司氏に出会ったことは大きい。彼からは「アスリートは、休養、食事、トレーニングが大事。プロとして体のケアをしなくてはならない」と戒められた。今、筑波大大学院で学ぶきっかけをつくってくれたのも、彼が筑波大で学び、仲介してくれたからだ。

 工藤さんも期せずしてここ筑波大大学院で、野球のけが予防の観点から学んでいる。工藤さんの研究分野でもあるが、プロに入ってからの肘痛※4は小学生時代の投げすぎが一因ではないかと思う。投げ込みはやらなくてはいけないと思うが、そのやり方が重要だ。球数だけでなく、強度も考えた方がいい。例えば100~150球投げたとしても全部を全力投球にせずに、疲れた時は疲れたなりに投げ込むことが重要になってくる。

 その意味で少年野球は少し試合が多すぎるのではないか。本番では全力で完投させる使い方もわかるが、練習試合から完投させるのはいかがなものか。試合数を減らして、年間を通じてどのくらいの強度で、どのくらいの球数をなげさせるべきか考えなくてはいけない。指導者の考え方を変えていくことが大事である。

 少子化の今、自分たちも子供たちの指導にかかわっていきたいと思うが、どうしたらよいかわからない。今、学んでいるコーチングの考え方を通じて情報発信をどうするか考えていきたい

※4「肘痛」
筑波大附属病院水戸地域医療教育センターの馬見塚尚孝講師(整形外科医)によると大学生で肘痛を訴えた人の86%は小学生時代に既往歴があるという。球数を制限しただけでは、肘痛は回避できないというデータもある。大事なのは球数と強度のバランス。小さい時には、全力であまり球数を投げないことが、将来の障害防止に役立つ。


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