2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2009年11月26日

 「誰にでもできる仕事は中国へ流れる。今後日本は世界の開発国を目指すべきで、そのためには、モノづくりの上流である試作という段階から携わり、製品化につなげることが重要だ」

 京都試作ネット代表理事で山本精工(宇治市)代表取締役副社長の山本昌作氏はこれからの中小企業のあるべき姿について、こう力説する。

本気度が試される 2代目経営者の挑戦

 京都試作ネットは、府内の機械金属業者などの18社で組織した企業連合。インターネットを通じて、顧客からの試作品の相談を受けてから、図面があるものについては2時間以内に見積もりを回答、図面のないものなどは2時間以内に商談のヒアリングを行う。

 メンバー企業の共通理念は「京都を試作の一大集積地にすること」(同)であり、01年7月に設立。メンバー企業は、たとえば同じ金属加工でも、アルミ加工や微細加工など、独自の強みを持つため、仕事の奪い合いになることはない。無論、行政からの支援を受けることのない自立した集団である。

 しかし、ITバブルが崩壊し、多くの中小企業が受注の激減に苦しむ中、なぜこうした企業連合ができたのか。山本氏は言う。「試作ネットの立ち上げの10年前から、府内の中小企業の2代目経営者の集まりでピーター・ドラッカーの経営学の勉強を始めた。そこで、顧客を創造することが事業の目的とするドラッカーの経営哲学をどう具現化するかの議論を積み重ねてきた。いわばその集大成が試作ネットだ」

 高い志を持つ集団だからこそ、活動も本気だ。年会費は60万円で、展示会や広告媒体費用などに使う。加えて毎週の事務局会議をはじめ、各社選りすぐりの営業マン約30名を集め、顧客とのやりとりでの反省点の共有や新規開拓に向けて戦略を練る毎月の営業活動会議などで徹底した議論が行われる。

 メンバー企業になるには半年間の準会員期間にドラッカーの講座や毎月の理事会、営業活動会議にも参加する必要があり、企業の本気度が問われる。山本氏は、「途中で離脱する企業もある」と内実を明かしつつも、「この連携がうまく機能するポイントはその集団が自立しているかどうか。そして、メンバー企業は金儲けではなく、どう事業を創造するのかという理念を共有できること」が鍵だという。

 厳しいからこそ成果も着実に現われ始め、設立から09年3月末時点までの引き合い件数は2504件、成立件数は636件、成約金額も12.4億円を突破した。それだけではない。山本精工は取引先が9年前はわずか50社だったのが、今では450社に増えたという。また、衣川製作所(京都市)は試作ネット加入前の売上高は1億8000万円だったのが、昨年度は3億6000万円に達するなど、試作ネットのメンバー企業の業績も好調のようだ。

 同社代表取締役の衣川隆文氏は、「当社は半導体製造装置に強みがあったが、試作ネットに加入して以降、半導体で培った技術をもとに、医療機器開発も手がけるようになり、技術のストライクゾーンが確実に広がった」と試作ネット効果に胸を張る。

この道42年 町工場の開発屋

 「親から仕事がもらえているときは、やっぱり楽なんですよ」と、ファースト電子開発(東京都北区)の伊藤義雄社長は言葉を絞りだした。「自助努力」「自社製品の開発」……、努力は一朝一夕ではいかない。同社は人工衛星の通信機器を製造、スイスの高級時計メーカーに競技用計測器をOEM供給するなど、電子・無線応用技術を駆使して国内外に顧客を持つ。創業42年、技術のみで生きてきたわけではない。


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