「子宮頸がんワクチン副反応 白血球型影響か」(日本テレビ、2016年3月16日22:18日テレNEWS24)
「子宮頸がんワクチン副反応『脳に障害』 国研究班発表」(TBS、2016年3月16日NEWS23)
「健康障害 患者8割、同じ遺伝子」(毎日新聞、2016年3月17日朝刊)
「子宮頸がんワクチン 脳障害発症の8割で共通の白血球型」(朝日新聞、2016年3月17日朝刊)
「接種副作用で脳障害 8割が同型の遺伝子 子宮頸がんワクチン」(読売新聞、2016年3月20日朝刊)
「記憶障害や学習障害など脳の働きに関する症状を訴えた患者の7~8割は特定の白血球の型を持っていることが分かった」(中日新聞<共同通信配信>、2016年3月17日朝刊)
3月16日以降、こんな報道が続いた。
16日の午後、池田修一・信州大学脳神経内科教授を班長とする「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究」(通称:池田班)と、牛田享宏・愛知医科大学医学部学際的痛みセンター教授を班長とする「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」(通称:牛田班)の2つの子宮頸がんワクチン副反応研究班による成果発表会が行われた。これまで2班は非公開の合同会議を繰り返してきたが、この日はその模様がメディアに公開される形となった。一連の報道は2班のプレゼンテーションを受けてのものである。
「遺伝子」に食いつくメディア
プレゼン合戦の結果は、池田班の圧勝だった。メディアは池田班の発表だけに触れた。科学的な意味を持たないデータでも「遺伝子」「白血球型」といった科学的なワードを使って不安を煽るデータを出せば、メディアは進んで書く。言い方にさえ気をつけていれば、問題になっても「メディアが勝手に書きました」と言える。牛田班が公然と池田班を批判しないことも分かっていただろう。神経に障害が無くても痛みが生じることや、子宮頸がんワクチン導入以前から、原因不明の長引く痛みを訴える子供が多数いることを紹介した牛田班の眠たげなデータに触れたメディアはなかった。
問題の白血球型は、正しくはHLA(ヒト白血球型抗原)型と呼ばれ、ヒトの免疫応答に深く関与する遺伝子の配列だ。人によって型が異なり、例えば、移植を行う際に拒絶反応がおきないよう患者と臓器提供者との間で一致させるのもこのHLA型である。
2015年7月4日、毎日新聞が「信州大の池田班に加わる鹿児島大のグループが12人の患者の血液を検査したところ、HLA-DPB1という遺伝子が0501型だった患者が11人(92%)に上り、免疫異常による脳炎を起こしていた。0501型は日本人に多い型だが、全体では4〜5割に過ぎないため、同グループは、『HLA型が副作用に関連している可能性がある』とした」 と報じて以来、界隈では注目されていた話だったが、今回の成果発表会ではデータが更新され、*05:01の型の患者が鹿児島大で19人中16人(84%)、信州大で14人中10人(71%)となった。
筆者は、京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターの松田文彦教授の協力を得て、池田班の発表資料を検証した。すると、池田班の発表には複数の重大なミスリードが見つかった。