WEDGE REPORT

子宮頸がんワクチンと遺伝子 池田班のミスリード
利用される日本の科学報道(前篇)

村中璃子 (むらなか・りこ)  医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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 松田教授はこう語る。「そもそも、21とか14という少ない検体数では偶然の産物である場合が多すぎて、科学的にどうということは論じられない。そのため検定を行うことはほとんど意味をもたず、だから発表では検定の結果を示さなかったのかもしれない。今後の計画では150人に検体を増やしていくらしいが、少なくとも現段階でのデータは科学的意味を全く持たない」

 では、150人にまで検体数を増やすと、どんな検定結果が予想されるのか。

「信州大の14例の分布結果と同じままだったら」という仮定を念頭に松田教授に尋ねると、次のような答えが返ってきた。

「検定はデータが揃ってから行うものであり、仮定に基づいた推論はできない。いずれにせよ、150人のHLAを調べた結果が14人のときと全く同じであるとは考えられない。たとえば、*05:01の遺伝子頻度が約46.4%だとすると、14人が15人になった時に15人目の人がAA、Aa, aaである確率は、それぞれ21.5%、49.8%、28.7%であり、15人目がどれになってもおかしくない。それによって15人の集団の遺伝子頻度は50.0%、46.7%、43.3%となる。一例増やしただけでもこのようにぶれてくるので、14例から150例で頻度が変わらないという単純な発想は通用しない。それでも何か言えることはないかと聞かれれば、極めて控えめにではあるが、検体数を増やせば、14例のときDPB1*05:01よりも患者と対照群で頻度の差が大きかったDQB1*06:01やDRB1*15:02でより強い関連が得られる可能性がある」

 では、なぜ池田班はHLA-DPB1の*05:01というHLA型にこだわるのだろうか。先述した15年7月4日付け毎日新聞で紹介されたように、12例中11例と保有率が極めて高く(現段階でも保有率が7〜8割と高い)、他の遺伝子より目立ったこともあるだろうが、この考え方は保有率と頻度の混同であって誤りである。同時に、次のスライドからは、池田班のひとつの「狙い」が透けて見える。

※中篇「子宮頸がんワクチン"脳障害"に根拠なし 誤報の震源は医学部長 」につづく

【編集部より】
・冒頭に紹介した記事タイトルに誤植がありましたので修正しました(2016/3/24 17:50)

2ページ目、〈「患者で84%(鹿児島大)、71%(信州大)」という数値は、日本人の「遺伝子(正確には、アレル)保有率」であり、〉との記述について、「日本人の」とあったのを「患者集団の」に修正いたしました
2016/3/25 13:05

【特集】子宮頸がんワクチン問題

  
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◆関連:Wedge2016年04月号

 

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著者

村中璃子(むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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