WEDGE REPORT

2016年4月25日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

福島の被ばくと子宮頸がんワクチン。この2つのテーマに共通して潜む「支援者」や「カルト化」という問題を、福島出身の社会学者、開沼博さんと、医師・ジャーナリストの村中璃子さんが語り尽くした対談記事はこちら(前篇後篇)。本記事は対談の内容に関連するコラムです。

「あなたのホテルに送ったから持ってきて」

 物流も交通も麻痺した震災直後、福島に住む妻が、東京出張中だった夫に届けて欲しいと求めたのは、ホメオパシーで使う「レメディ」だった。自然治癒力に作用するという砂糖玉だ。

 海外の大学で教育を受けた妻は、根っからのナチュラル志向。オーガニック好きで玄米菜食を是とするマクロビオティックを実践し、原則、牛乳と肉は口にしない。思い返せば結婚前から、ヤマザキパンは危険だと食べず、コンビニのサンドイッチを買うとハムをどけていた。

iStock

 電子レンジを使わず、携帯電話はイヤホンマイク、子供にはテレビも見せなかったという妻は、仕事のある夫と離れ、娘と関東へ避難。その後、原発からもっと離れようと関西に避難したが、5年たった今も戻って来ない。当時2歳だった娘はもう小学2年生だ。

 子供にも自然が一番、人工的なものは良くないと、定期接種含む一切のワクチンを拒否。熱を出した時も病院でもらったシロップを与えなかった。食事は大豆肉や西日本の有機野菜を使い、給食のある小学校にも弁当を持たせている。

「食べ物は百歩譲るとして、ワクチン受けさせないのは虐待じゃないの?」

 口を開けば喧嘩になるが、妻は子供のためだと譲らない。2014年の漫画「美味しんぼ」の鼻血騒動に怒りを感じ、勉強を重ねた夫が、放射線量が下がったことを示すリンクや放射能に関する正しい理解を促す本を与えても「これ、私のじゃないから」と見ない。

 福島は無理でも、せめて東京で同居しようという話は何度もしたが、国は放射能汚染を隠しているといった陰謀論を吹き込む人やSNSに囲まれ、聞く耳を持たない。心配してフェイスブックの内容に意見すると、ブロックされ、投稿を読めなくなった。

「それでも避難先の人からすれば、子供を守るために避難し、頑張っているママということになるんです」

 適切な医療を受けられず、父親を失ったままなのに、子供は守られていると考える矛盾。

「父親が子供と一緒に居られないのは君の勉強不足じゃないのと言っても、私のせいじゃない、原発のせいとなる。確かに、事故がきっかけです。でも、もう事故のせいなのかどうかも分かりません」

 対話の糸口が見つからない妻との連絡が減る中、娘とは昨夏から会えていない。

〔関連記事〕開沼博×村中璃子対談「放射能と子宮頸がんワクチン カルト化からママを救う」前篇はこちら、後篇はこちら

【編集履歴】
・本文冒頭にリード文、末尾にリンクをつけ、写真の更新を行いました(2016/4/25)

  
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◆Wedge2016年5月号より

 

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