「春の東京、3つの顔に会いに行く」。
まるでなぞかけのようなこのキャッチコピー、3つの顔と聞いて多くの人がピンとくるはずだ。2009年、日本中を“阿修羅ブーム”に巻き込んだ「国宝 阿修羅展」のキャッチコピーである。
仏像界のアイドルとも呼ばれる阿修羅像を目玉に、法相宗大本山興福寺(奈良)の優れた天平彫刻で構成された今展は、春から初秋にかけて東京(東京国立博物館)、福岡(九州国立博物館)を回り、秋には興福寺に戻って巡回展のフィナーレを迎えた。
阿修羅ブームがとまらない
おどろくべきは、日本美術にしては異例の入場者数である。東京展が94万6172人、九州展が71万138人。興福寺に来場した25万人とあわせれば、今年阿修羅展に足を運んだのは190万人を超える。日本人に人気の高いオランダの画家・フェルメールや古代エジプトの展覧会でも入場者数は50万人(単館)には及ばない。最初の会場となった東京国立博物館では、レオナルド・ダ・ヴィンチ展を抑えて歴代第3位を記録した。
人気の展覧会であれば行列ができることも少なくない。が、この展覧会ではテーマパークの人気アトラクションさながら、連日1時間待ちの行列が続いたのである。
客層は老若男女に及び、仏像が好きな中高年はもちろん、仏像とは無縁と思われるような、女子中高生たちも会場に押しかけた。今年の流行語大賞となった「アシュラー」ということばは、“阿修羅像好き女子”という意味合い。事実、会場には「アシュラって、イケメーン!」「彼氏にしたい!」とはしゃぐ女子中高生が大勢訪れ、その様子はワイドショーでも取り上げられた。もちろんもともと仏像が好きな中高年の客も多かった。とにかくキャッチコピー通り、多くの人が阿修羅に会いにきたのである。
仏像ファンのすそ野をひろげたプロモーション
それにしても、阿修羅はなぜここまでウケたのか。見目麗しく、仏像界のアイドルとも呼ばれる阿修羅像。謎めいた3つの表情も魅力だ。でもそれだけで、ここまでブームになるだろうか?