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2016年5月17日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

 5月14日、札幌で行われていた日本小児科学会学術集会。「日本におけるヒトパピローマウイルスワクチンの現状と課題」というシンポジウムが行われた第7会場は、外まで立ち見の出る人だかりだった。撮影録音はおろか質疑も禁止という異例の厳戒態勢の中、会場を訪れた多くの医師たちが注目したのは、シンポジストの1人、横田俊平氏だ。

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前学会長のプレゼンテーション

 横田氏は日本小児科学会の前会長。学会長を務めていたころの横田氏は、ヒブワクチンの早期導入を求めるなど、ワクチンに積極的な小児科医だった。しかし、退官間際の2014年初め、子宮頸がんワクチンが重篤な副反応を引き起こし、「子宮頸がんワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS(ハンス)=HPV Vaccine Associated Neuropathic Syndrome)」という新しい症候群が生まれていると主張するグループに加わった。思春期の少女たちに起きている、慢性疼痛、歩けない、けいれんする、暗記が出来ないなどの症状は、子宮頸がんワクチンのアジュバントが引き起こした、自己免疫性の神経障害によるとするものである。

 横浜市立大学の発生成育小児医療学講座の教授であった横田氏は、教授職を退官後も同大学で通称「HANS外来」を担当し、子宮頸がんワクチン後に不調を訴えている少女たちを一人で診ていたという。しかし、この3月末、横田氏は同大学での外来診察を完全に辞め、4月からは、診ていた患者も引き連れて、霞が関アーバンクリニックに籍を移した。それに合わせ、横浜市立大学の子宮頸がんワクチン外来も、多くの診療科が連携して診察する一般的な体制へと変わった。霞が関アーバンクリニックとはHANSの名付け親であり提唱者でもある、かの西岡久寿樹氏(東京医科大学医学総合研究所所長)のクリニックである。

 横田氏のスライドのタイトルは「HANS患者との出会い」。学会にしたらやや情緒的に過ぎるタイトルにも思えるが、自らが臨床医であることを強調する横田氏らしい。

 真っ黒な月経血、異常な乳汁分泌、右だけがけいれんする、暗算できない、漢字がかけない、幻聴・幻視、むずむず足症候群、年齢不相応な母への異常な愛着――筆者はこれまでにも、HANSを提唱する医師たちがプラットフォームとしている線維筋痛症学会などで何度か横田氏のプレゼンテーションを聞いているが(参考記事:「子宮頸がんワクチン薬害説にサイエンスはあるか」)、「心の問題でこんなことが起きますか?」「心の問題じゃないです」「私は臨床医ですから」といった言葉を頻繁に差し挟みながら、症状とワクチンとの因果関係を印象付ける話し方にはさらに磨きがかかっていた。

 5人のシンポジストのうち、いわゆる小児科医は横田氏だけだ。横田氏以外の論者は、痛みを専門とする麻酔科医(東京大学、住谷昌彦氏)、感染症疫学を専門とする日本在住の外国人研究者(北海道大学、シャロン・ハンリー氏)、産婦人科医(東京大学、川名敬氏)、保健行政の専門家(川崎市、岡部信彦氏)である。ここは日本小児科学会の学術集会、つまり横田氏だけがホームで、他のシンポジストはアウェイとなるコミュニティでのシンポジウムということになる。

 横田氏は、予定された15分の持ち時間を大幅に超過する25分の間、「外国に副反応がないというのはウソです」「これはスモン病と同じです」と自信のある口調で話し続け、「我が国は子宮頸がん大国になってしまう、これはウソです、大ウソです」「HANSの子は全国で少なくとも1万人はいるはずです」と語気を強めた。しかし、肝心のHANSの診断基準は示さず、長らく争点となってきた「身体表現性障害」を鑑別疾患に挙げない発表では、会場に詰めかけた同僚の小児科医たちを納得させることはできなかったようだ。(筆者注:鑑別とは、他の似た疾患と区別すること)。

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