2024年4月19日(金)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年12月25日

 もっとも、景気悪化によって税収は当初見積もりよりも9兆円ほど減少している上に、ムダづかい排除による予算組み替えが想定以上に難しく、赤字国債の増発を回避することは当初から極めて難しかった。そこで、子ども手当、高速道路無料化など主要な目玉政策についても新規支出額の削減、あるいは大幅支出減となった。しかし、これでは、来年度予算は仕上がっても、新政権が目指す新しい政策の方向は不鮮明になる。加えて、埋蔵金を総動員して国債増発を回避したが、基本的に一度限りの埋蔵金を使い切ってしまうことで、2011年度以降の財源は一層心許なくなってしまった。

 そもそも、内需は不振で、日本経済の回復力は鈍い。しかも、今後とも賃金上昇に乏しいまま少子高齢化が進展していけば、中長期的な日本経済の潜在成長力はゼロ%台に落ち、デフレはなかなか解消されないとの計算もできる。しかも、財政赤字は大きく、国債増発を伴った財政支出拡大が経済を支えるにも限界に近い。

 結局、成長力をかさ上げする成長戦略がないままでは、日本経済の回復のみならず財政赤字も一段と拡大し、予算編成の自由度までもが一層失われつつある。

財政再建は企業・個人が経済自立すること

 足元の財政赤字拡大や予算編成の自由度喪失は、日本の財政に限界が生じていることを示している。もちろん、財政の限界を打破するために、歳出歳入を見直すことは基本であり、この見直しが財政再建にも直結する。

 現状よりも財政赤字を悪化させるばかりでは、国債金利の上昇につながりかねない。足元の国債金利において、財政赤字増大懸念がもたらしている金利上昇部分(財政リスクプレミアム)はすでに0.7%余りとも試算される。現在のところはデフレが進行しており、それが長期金利の上昇を抑制している。しかし、このまま財政赤字が拡大すれば、国債費の増加を通じて一段と財政の自由度を制約し、金利上昇から経済にも悪影響を具体的に及ぼしかねない。

 一方、財政再建も容易ではない。歳入増は必要としても、経済に成長力が乏しい中では増税などは漸進的に行うしかない。一方、ムダづかい排除等歳出の見直しも強力に行う必要があるが、事業仕分けの結果を見ても、そう簡単に巨額のムダづかいが排除され、財政資金が捻出できるようには見えない。歳出に大きな制約があることは、追加的に国が大きな財政支出をするには限界があるとの見方にもなろう。

 もっとも、筆者は、だからといって小泉改革のように、小さな政府と市場主義、あるいは供給サイドの活性化を図るサプライサイド的な経済改革だけが正しいというつもりはない。サプライサイド的な経済改革の考え方は、70年代の石油ショック後に生じたスタグフレーションに、有効需要を刺激するケインズ的な経済政策ではうまく対応できなかったことで隆盛となった。しかし、足元では世界的に需要が減退し、ディスインフレ傾向が強まっている。

 とりわけ、日本では賃金下落による消費力の減退もあり、デフレが持続するような状況ともなっている。この経済状況は、スタグフレーションとは大きく異なり、供給強化よりも需要強化が課題となっていることを示している。すなわち、現在は、過剰な供給ではなく、不足する需要を自律的かつ構造的に盛り上げる経済改革が求められる局面なのだ。

 これは、現政権が行おうとしている、ヒトへの投資を通じて家計所得を増やし、個人消費を盛り上げようとする方向に合致する。言い換えれば、足元の財政制約の中にあっても、ヒトへの投資やそれに絡む少子化対策などを成長戦略とするような方向はぜひ実施すべきである。

 他方、供給サイド、すなわち企業部門についても、何もしないでよいとはならない。企業活力を高めることが、歳出歳入両面で財政に寄与するのみならず、日本経済の成長力を高めることにもつながる。したがって、極力競争政策を導入して、企業活力を高めることが求められるということである。そして、日本企業の利益率が欧米企業の半分から3/4ほどしかない事実も、競争政策に余地があることを窺わせる。

 来年度予算編成に当たって見えてきた問題は、財政の制約であり、財政再建の必要性である。同時に浮かび上がるのは、歳出歳入のバランスを崩すほどの日本経済の成長力のなさや企業の収益力の乏しさだ。

 来年度予算が編成されても、国民はそれで安心すべきではない。今後新しい政策を打つには、財政バランスへの配慮が欠かせない。それは、歳出面では、優先順位の高い政策に貴重な予算を充てていくことに他ならない。それは、もっと地域のみならず企業と家計も経済自立することを真剣に考えなければならないことを意味している。一方、歳入面で示されていることは、歳入増をいかに図るかと同時に、成長戦略と企業の競争政策に真剣に取り組まなければならないことである。

 

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