WEDGE REPORT

2016年6月23日

»著者プロフィール
著者
閉じる

村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

1.示された画像は、子宮頸がんワクチンを打ったマウスのものではなく、遺伝子異常のある特殊なマウスに、ヒト換算で100倍もの量のワクチンを接種して採取した血清(血液の液体成分)を、正常マウスの脳にふりかけて得たものであった。

2.使用したのは、飼っているだけで数カ月もすれば加齢により神経細胞死が生じる特異なマウス。また、ワクチンを打っていなくても自己抗体(異物ではなく自分を攻撃する異常な免疫)が生じるマウスであった。

3.つまり、光っていたのは脳に反応して沈着した自己抗体ではなく、異常マウスから採った血清に含まれていた自己抗体。そのため、子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも、また生理食塩水であっても、強く緑に光る画像はいくつもあった。

4.子宮頸がんワクチンだけが光った画像とグラフは、数あるマウスの脳切片の1つ(N=1)にたまたま起きた状態である。科学的な意義は限りなくゼロに近い。しかし、池田教授はこの組み合わせのスライドだけを選んで公表した。

5.この実験の結果がどうであれ、子宮頸がんワクチン接種後に脳神経障害が生じているとする少女たちの症状に結び付けて考えることは一切できない。

別のマウスに"ふりかけた"

 人間には血液脳関門(blood-brain barrier、 BBB)と呼ばれる、脳の神経細胞を有害な物質から守るための関所のような組織がある。血管は人間の体に様々な物質を運ぶ役目をするが、生命の中枢である脳だけは、血管との間に強固なバリア機構があり、血管が通っているからと言ってどんな物質でも脳に届くわけではない。

 脳の障害を疑うという子宮頸がんワクチン副反応問題でも、ワクチン薬剤が本当にBBBを越え、脳に何らかの影響を及ぼしているのかが最大の争点となっていた。

 しかし、実験では、もともと極めて自己抗体のできやすいノックアウトマウスに、子宮頸がんワクチンをはじめとする各ワクチンを接種し、血清(血液の液体成分)を採取。その血清を、別の正常マウスの脳切片にふりかけて撮った画像なのだという。

 実験者は、ワクチン薬剤がそう易々とBBBを越えないことは十分承知していたのだろう。

 そのため、自己抗体を生じさせた別の異常マウスからわざわざ血清を採取し、正常なマウスの脳切片にふりかけたのだ。

 実験で投与したというワクチン量の50マイクロリットル。これは、換算するとヒトへの投与量の100倍以上だ。一体何がしたいのか。

 投与量については、Wedge7月号(6月20日発売)にマウス実験の記事を発表した後に、A氏に改めて質問をしたが、納得のいく回答は得られなかった。

チャンピオンデータは科学か

 他のワクチンでも強く光っている写真がたくさんあったのに、池田教授は、子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表した。

 しかも、この発表データは、写真もグラフもサンプル数1。つまり、数いるネズミのうち、仮説にとって都合の良い、たった1匹についてのデータ=チャンピオンデータであった。

 チャンピオンデータとは、言ってみれば「100人に1人」しか成功しないダイエット法で減量に成功した一個人のデータや写真のようなもの。そこには再現性も統計的意味もない。チャンピオンデータは、科学ではなく宣伝である。

 そのため、科学で「ネズミ1匹」の解析データが示されることはないし、やってはならない。

 NEWS23での池田教授の言葉を聞いた視聴者は、誰もが「子宮頸がんワクチンを接種したマウスの脳だけに異常が起きていた」と理解したはずだ。

 しかし、この実験では、ワクチンがワクチンを打ったマウスの脳に障害を起こしていたことにはならない。ましてや、少女たちの症状と結び付けて考える根拠はひとつもない。

 A氏とのやり取りは次の通りだ。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る