2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2016年6月27日

 年度末までの発表に向け担当者が作業を急いでいたであろう時期、ある大きな出来事があった。それは、3月30日に開かれた、 6月以降に国と製薬会社2社を相手に集団提訴を行うとする被害者団体の記者会見である。各紙の報道によると、会見の時点で原告に加わる意向を示しているのは12人。その後、原告を募る説明会が続けられていた。

 この件について、6月2日の取材で編集部が市の担当者と次のようなやりとりをしている。

「因果関係がない」ままなのに、
そうとは言えなくなった名古屋市

編「年度末にちょうど、3月30日に国賠提訴の会見がありました。影響はありましたか?よりセンシティブになったとか」
市「ええ、そのあとは、ですね」
編「どういう風にセンシティブになるんでしょうか? 提訴に関わる捉えられ方をする、とか」
市「そういうのはありますね。速報出してからでもそうですけれども、これを元に色んなことをお話し伺っている部分も色んなところでありまして」
編「有意差がない、という部分が色んな引用や話につながるわけですね」
市「はい。私どもとしてはどちらにも与していないし、中立的な立場が保てるのも非常に大事だな、と」
編「提訴の話があってセンシティブ度が上がっているなかで、解析結果を出しづらくなった?」
市「どうするんだどうするんだという話は当然出てきまして」
編「提訴の話が出て、役所の中では議論になりましたか?」
市「どうするんだと議論はあった。上層部も頭の隅にはあると思います」

 もう一つ、市の「苦しい事情」がよく理解できるエピソードがある。

 子宮頸がんワクチンの製造販売企業の1つであるMSDに対し、名古屋市は、抗議文を送っている。

 MSDは、集団提訴の記者会見のあった3月30日に声明を発表し、名古屋市の調査についてこう触れている。

「2015年12月には名古屋市が疫学調査を行い、約30,000人の女性から回答がありましたが、この調査では、接種者と非接種者の間で調査対象となった 24 項目の症状について発症頻度に差はなかったという結果が報告されています」

 つまり、被害者の会が訴えるという製薬企業の声明文に、ワクチンの安全性を裏付ける、製薬会社にとって有利な情報として、名古屋市の速報結果が引用されたのだ。この引用に対して市は抗議しているのだが、公表資料の一部を引用することは著作権法上も認められており、市の言い分は不可解だ。

編集部「抗議は文書で行ったんですか」
市「はい」
編「どのような内容ですか」
市「あくまで速報値ですし、それをもってあたかも科学的な根拠が取れたかのような結論なさっているんですが、私どもはそういうことは言っていないんですよと」
編「引用は削除してくれと?」
市「はい。そうお願いしています。最終報告じゃない、速報ですよということ。結果が変わるとは思ってないとは言っているんですけれども、最終報告として出したもんじゃない」
編「最終のあとならよかった?」
市「ま、そこで使われるぶんにはあれかもしれない、ただ、あともうひとつは、引用の仕方ですね。あからさまなエビデンスのひとつとして、『ない』ですよ、という言い方で書かれているので。うちとしては結論の下にきちんと書かせていただいていますけれども、慎重に判断していく部分もあるので、名古屋市として『ない』と言ってるわけじゃないと」


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