「絶対に名は出さないでくれ」
台湾のシラスウナギ(ウナギの稚魚、以下シラス)輸出業者は我々取材班にそう告げた。なぜ名を出すことを頑(かたく)なに拒むのか──。それは彼に「罪」の自覚があるからである。
日本人の好物であるウナギを巡って、台湾、香港、日本を舞台に壮大な「不正」が行われている。今回、取材班はその舞台である台湾、香港へと飛び、関係者らを取材した。
取材のアポイントメントを入れるのにはかなり骨が折れた。当たり前だが話すメリットなどなく、誰も話したがらないからだ。だが、様々なコネクションを使って、交渉を続けた結果、匿名を条件に複数の人物が取材を受けてくれた。


台湾は2007年にシラスの輸出を禁止した。正確に言えば、台湾でシラスが採れる10月下旬~3月末とほぼ重なる11月~3月における輸出の禁止である。冒頭登場した台湾の業者は、シラスの密輸出に携わる人物である。
「もちろん台湾でシラスの輸出が禁止されているのは知っている。だから色んな〝抜け道〟がある香港へまず運び、その後日本へ運ぶんだよ」
台北市内のとあるホテルの一室で、台湾の輸出業者は身振り手振りを交えながら話をした。