東日本大震災以降、電気料金は最大で家庭用が25%、産業用が38%上昇した。その主な原因は、原発の停止による石油、天然ガスなどの化石燃料の購入量増加だが、それだけではない。太陽光、風力発電などの再生可能エネルギー導入支援のため菅直人政権が2012年7月に開始した固定価格買い取り制度も電気料金を引き上げた。
電気料金の上昇は、社会の様々な場面に影響を与えている。例えば、全国チェーンの大型スーパーであれば、年間の電気料金の支払額は100億円を超えているので、電気料金が4割近く上昇すれば数十億円の負担増だ。薄利多売の商売には大きな影響がある。製造業の支払う電気代は年間1兆円増加したが、製造業が1年間に支払う月額給与の合計は30数兆円だ。零細企業を含む製造業全体では電気料金の負担増は3%の賃上げ額に相当する。
日本では、生活が苦しいと答える国民が6割を超えている。トマ・ピケティーは著書「20世紀の資本」により世界の多くの国で格差が拡大していると指摘したが、日本では90年代前半のバブル崩壊以降格差の拡大は見られず、全体の給与がどんどん下がっているのが実態だ。かつて言われた1億総中流から今や1億総下流になりかねない勢いだ。生活が苦しい人が増え6割を超える一方、生活に余裕がある人の数が減り、4%を下回っているのだ。
多くの人たちにとって、電気料金の上昇は見過ごせない額になっている。経済成長と給与の増加を作り出す必要があるのは言うまでもないが、その足掛かりの一つは、電気料金の引き下げだ。そのために必要なのは、安全が確認された原発の再稼働を進めることだ。
1億総下流時代に向かっている日本
日本で1年を通し働く人約4000万人の平均給与は、1997年度の年収467万円をピークに波を打ちながら下落を続け、2014年度は415万円になっている。給与は、私たちが作り出す付加価値額(簡単に言えば儲けだ)から支払われるから、給与が下落する理由は一人当たりの付加価値額が伸びていないからだ。付加価値額は国内総生産(GDP)と同じだ。要は、一人当たりGDPが全く伸びていない。
図‐1の通り、1990年代前半日本と一人当たりGDP世界一の座を争っていたルクセンブルク、スイスの一人当たりGDPは、いま日本の3倍から2倍に成長している。日本は全く成長していない。米国の公務員が使用する中央情報局(CIA)のデータでは、日本の一人当たりGDPは消費者物価指数で調整後世界42位。国際通貨基金(IMF)の米ドル建てのデータでは世界24位。主要国で、日本より一人当たりGDPが低い国はイタリアだけになってしまった。アジア、大洋州ではシンガポール、豪州に抜かれ、韓国に迫られている。