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2016年10月6日

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吉富望 (よしとみ のぞむ)

日本大学危機管理学部教授

1983年に防衛大学校を卒業し、陸上自衛隊に入隊。野戦特科部隊勤務および陸上幕僚監部、防衛省情報本部、防衛省内局、内閣官房内閣情報調査室等の勤務 を経て2007年から第1地対艦ミサイル連隊長、2009年から防衛大学校教授、2013年から陸上自衛隊研究本部総合研究部第1研究課長、2015年4 月に陸上自衛隊を退官(退官時の階級は陸将補)し現職。主たる研究分野は、アジア太平洋地域の安全保障、陸上自衛隊の態勢、自衛隊(軍)による人道支援・災害救援、民軍連携。

【学歴】1983年3月 防衛大学校(国際関係論専攻)卒業。2006年3月拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了。修士(安全保障)。2013年3月  拓殖大学大学院国際協力学研究科博士後期課程単位取得退学。
 

 2016年9月6日付の讀賣新聞朝刊に「陸自輸送 契約船使えず」との記事が掲載された。その記事によると、2016年2月の北朝鮮による長距離弾道ミサイルの発射に際し自衛隊は、年間輸送契約を締結していた「新日本海フェリー」所属のフェリー「はくおう」でミサイル落下に備えるための部隊を沖縄本島から石垣島などへ移動させようとしたが、船員が加盟する全日本海員組合が難色を示したため同船の使用を断念したとのことである。自衛隊はその後、定期船などを使って部隊を運び、ミサイル発射にはぎりぎり間に合った模様である。

 また記事では、本件の原因は防衛省と「新日本海フェリー」との契約では、輸送支援の事例として「災害派遣等」を挙げており、ミサイル発射に対処するための輸送がこれに該当するか否かで防衛省側と組合側で見解が分かれたこと、ならびに組合側が武器の輸送はしない姿勢であることとしている。

iStock

東日本大震災以降における自衛隊の海上輸送力強化の動き

 自衛隊が平素に民間船舶を使用することは常態化している。著者も四国の陸上自衛隊の部隊に勤務中、北海道での転地訓練のために民間フェリーを使って移動した経験がある。ただし、転地訓練のように年度の計画に基づく輸送であれば民間船舶を事前に確保できるものの、災害派遣等で突発的に輸送ニーズが発生した場合、海運会社及び海員組合の協力無くして民間船舶を確保することは難しい。例えば、2011年の東日本大震災の時点で、自衛隊の海上輸送力の主力は「おおすみ型輸送艦」3隻であったが、震災に際してこのうち2隻が主として救援物資の輸送等に従事した(1隻は定期修理中のため不稼働状態)。このため、北海道から被災地に赴く陸上自衛隊の海上輸送は民間フェリーと米海軍の揚陸艦が実施した。この際の民間フェリー会社と海員組合による協力は特筆に値する。その一方で、緊急時における自衛隊の海上輸送が民間フェリー会社と海員組合による協力に左右される実態を強く再認識させたのも事実である。

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