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2015年9月22日

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吉富望 (よしとみ のぞむ)

日本大学危機管理学部教授

1983年に防衛大学校を卒業し、陸上自衛隊に入隊。野戦特科部隊勤務および陸上幕僚監部、防衛省情報本部、防衛省内局、内閣官房内閣情報調査室等の勤務 を経て2007年から第1地対艦ミサイル連隊長、2009年から防衛大学校教授、2013年から陸上自衛隊研究本部総合研究部第1研究課長、2015年4 月に陸上自衛隊を退官(退官時の階級は陸将補)し現職。主たる研究分野は、アジア太平洋地域の安全保障、陸上自衛隊の態勢、自衛隊(軍)による人道支援・災害救援、民軍連携。

【学歴】1983年3月 防衛大学校(国際関係論専攻)卒業。2006年3月拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了。修士(安全保障)。2013年3月  拓殖大学大学院国際協力学研究科博士後期課程単位取得退学。
 

 米国防省は9月2日、アラスカ州沖のベーリング海の公海上で中国海軍艦艇5隻を確認したと発表し、その後、この中国艦隊がアリューシャン列島周辺の米国領海12カイリ内を通航したことを明らかにした。近年、中国の海洋進出はアジアの枠を超えて活発化しているが、日本では(米国でも)東シナ海、南シナ海およびインド洋という「南の海」における中国の活動が関心の的となっている。

Getty Images

 その虚を突くように突如、ベーリング海という米国本土に隣接する「北の海」に初めて出現した中国艦隊の行動に込められた意図は何か、そして日本(日米)が中国海軍の「北の海」への進出を踏まえて講じるべき備えとは何か、考えてみたい。 

アリューシャン列島地図(iStock)
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 まず、ベーリング海に進出した中国艦隊の内訳はミサイル駆逐艦1隻、フリゲート2隻、揚陸艦1隻および補給艦1隻とみられる。これら5隻は8月20日から28日までの間、日本海でロシア海軍との共同訓練に参加した後、8月29日に宗谷海峡を東航してオホーツク海に入ったことが海上自衛隊によって確認されている。

 中国艦隊はその後、カムチャツカ半島とアッツ島との間の海域を北上してベーリング海に入り、9月3日の夜にアリューシャン列島を通過(南下)して北太平洋に入る際に米国領海内を通航した。中国側は本領海内通航について米国側に事前に通知していないが、米国防省は本領海内通航を無害通航とみなし、国際法上の問題は無いと述べている。なお、中国艦隊がベーリング海で行動した時、オバマ大統領はアラスカを訪問中(8月31日~9月3日)であった。

 この中国艦隊の行動に関する中国国防省のコメントは「通常の訓練としてベーリング海に入ったものであり、特定の国に焦点を当てた訓練ではない」である。ちなみに、中国艦隊が米国領海内を通航した9月3日は北京の天安門広場で大規模な軍事パレードが実施された日でもある。

中国艦隊の行動に込められた意図とは

 米国は現在、安全保障分野で中国に対する苛立ちを強めている。その背景は中国による南シナ海での大規模な埋め立てと基地建設の動き、および米国政府機関や企業に対するサイバー攻撃である。中国の習近平国家主席は9月22日から28日まで米国を訪問するが、この際には安全保障分野でオバマ大統領との厳しい応酬が予想されている。

 そのオバマ大統領がアラスカに滞在しているタイミングで中国艦隊がベーリング海に進入し、米国領海内を航行することは、国際法上は問題が無いとはいえ米国の苛立ちを逆撫でしかねない。加えて、9月3日の軍事パレードで米本土を攻撃できる大陸間弾道弾を誇示すると同時に米本土近くで海軍艦艇が示威的な行動を行うことは、一種の挑発と言える。

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