2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2016年10月17日

 過激派組織「イスラム国」(IS)が占領するイラク第2の都市モスルの奪回作戦が17日始まった。作戦に参加するイラク軍やクルド人勢力は年末までに市中心部に進撃する計画。しかしIS側は即席爆弾を地雷原のように埋設。地下トンネル網を建設、ドローン爆弾という新兵器も投入し、徹底抗戦の構えで、作戦の成否は不透明だ。

モスル(iStock)

ISの残留戦闘員は4500人

 モスル奪回作戦の詳細は数ヶ月前、イラク中央政府と同国北部を支配するクルド自治政府が合意、一気に加速された。イラク軍やクルド人武装組織ペシュメルガはすでにモスル周辺を遠巻きに包囲し、市南方60キロのカイヤラ空軍基地には12旅団約1万5000人が集結している。

 イラク軍はこれまでISが占領していたバグダッド西方のアンバル州ラマディやファルージャなどを次々に奪還、最後に残ったのが最大の難関である大都市モスルだ。ISが2014年6月に同市を占領した時には200万人の住民がいたとされる。国連などによると、住民の一部は逃亡したが、現在でも約120万人がIS統治下で生活している。

 実際のモスル突入作戦の先陣を切るのは、米軍が訓練した1万人のイラクの対テロ治安部隊だ。これにカイヤラ空軍基地の旅団やイラン訓練のシーア派民兵軍団、スンニ派部族勢力も加わり、総勢約8万人に上る見通し。クルド人のペシュメルガは北部、東部からモスルに迫る計画だ。イラクに常駐する約6000人の米軍顧問団や特殊部隊も側面支援する。

 作戦はファルージャなどで行ったように、包囲網を段階的に強化して市の中心部に肉薄する形になりそう。この地上部隊の進撃を米軍が空爆で支援、とりわけヘルファイア・ミサイル搭載のアパッチ型攻撃ヘリ部隊が重要な役割を担う。しかし人口密集地への空爆は相当、神経を使うものになりそうだ。

 これに対してIS側は「3000人から4500人」(米情報機関)の戦闘員が住民を人間の盾にして待ち構えている。ISにとってモスル陥落は「象徴的な敗北」となるため、全員が自爆する覚悟であらゆる抵抗を試みるだろう。

 IS側は深い塹壕を掘ってそこに油を注入、イラク軍の進撃時には火を放つものと見られている。市全体には即席爆弾をみっしりと仕掛け、地下には長く広大なトンネル網を張り巡らしている。トンネルは防空壕として、また神出鬼没のゲリラ戦に活用するためのものだ。

 イラク当局者らによると、モスル市街は大河チグリス川で東西に分断されているが、ISは攻め込まれれば東側から撤収し、市の中心部である西側の防衛に集中するのではないかという。西側には多くの狭い道が通っており、戦車などが展開するのがより難しいためだ。

 米国防総省がここにきて懸念しているのは、ISが小型のドローン(無人機)に爆弾を搭載して攻撃を仕掛けている点だ。ISはこれまではイラク軍や米軍の動きを探る偵察用としてドローンを使ってきたが、10月には地上に落下したドローンが爆発、回収しようとしていたクルド人戦闘員2人が殺された。

 9月にも少なくとも2回、ドローン爆弾が使われたという。国防総省はISのドローン攻撃を防ぐため、2000万ドルの予算を要求して対処方法を研究中だ。ISが使っているドローンは米軍の本格的な機体とは違い、アマゾンで購入できるような小型のものだが、米軍は新たな脅威として頭を抱えている。


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