WEDGE REPORT

2016年11月1日

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神保 謙 (じんぼ・けん)

慶應義塾大学総合政策学部准教授

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。南洋工科大学ラジャラトナム国際研究院客員研究員などを歴任。

 現段階において、北朝鮮の核兵器の実戦配備はほぼ最終段階にあるとみてよい。北朝鮮の核・ミサイル実験は実戦配備に向けた軍事的合理性に適ったものであり、単なる「核保有」という象徴的な意味合いから「核の運用」という現実的段階へと状況は急速にシフトしているのである。その意味で、「北朝鮮の核兵器は運用段階にない」といった楽観的評価や、核・ミサイル実験の主たる目的は国威発揚や対米交渉カードであるといった情勢判断は、北朝鮮の意図と能力の過小評価であると言わざるをえない。

 しかし、冒頭の北朝鮮代表団が言及したような、北朝鮮が対米抑止力を持ったという判断は過大評価でしかない。核兵器が抑止力として機能するためには、いかなる状況下でも相手国に核ミサイルを高精度で打ち込める能力(具体的には相手国からの攻撃を回避し、ミサイル防衛を突破できる能力)を担保する必要がある。北朝鮮が現時点で達成したのはその一部分の能力であり、最小限抑止を担保する攻撃手段の残存性や指揮命令系統の信頼性の確保など、まだ初歩的な段階に過ぎないのである。

 しかし、仮に北朝鮮が、米国や韓国への抑止力を確保したという認識を一方的に持った場合、地域における小・中規模の軍事的挑発行為を誘発する可能性も高まる。これが北朝鮮の核能力を過大評価することの危険性である。

 我々は以上の過小・過大評価を慎重に避けつつ「核兵器の実戦配備は現実的段階にあるが、信頼ある対米抑止力の確保には至らない」ということを情勢判断の基礎に据えるべきである。

北朝鮮の戦略的優位を阻む、不断の抑止態勢を築け

 北朝鮮の核・ミサイル開発の進展は、日本を含む北東アジア諸国にとり、現実的で差し迫った問題となっている。

 しかし、6カ国協議の再開の目処が立たず、北朝鮮が6カ国協議の共同声明を反故にするなかで、膠着状態に陥った多国間外交に打開の可能性を見出すことは難しい。今年の3月に制裁措置を追加・強化した国連安保理決議2270が全会一致で採択されたことは重要な成果だが、北朝鮮の核・ミサイル開発の制止に向けた効果を見出すことはできていない。制裁の効果の鍵を握る中国も北朝鮮の体制の動揺・崩壊に繋がるような圧力の強化には依然として及び腰である。

 こうした中で重要性を増すのは、北朝鮮に新たな能力獲得によって戦略的な優位をもたらさない、不断の抑止態勢の整備の必要性である。第1に重要なのは、日本の弾道ミサイル対処能力の総合的な向上の必要性である。近年の北朝鮮の多種・多様なミサイルとその運用態勢に対応するためにも、隙のない即応態勢や同時・継続的な対処能力を強化する必要がある。

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