チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年3月17日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 早ければ今月末にも金正日国防委員長が訪中か――。そんな観測が流れる中朝関係は、本音の部分はさておき、表面的には急接近の様相を見せている。

 象徴的なのは今年に入って間もなく訪朝した王家瑞中国共産党中央対外連絡部部長が、北朝鮮に対する100億ドル規模の投資計画を明らかにしたことだ。これは事実上の制裁解除へ向けたサインとみられなくもない。

中国もロシアも北朝鮮を抑制できない

 北朝鮮の生殺与奪は中国が握っているとの認識が世界に広くあるが、実際の中朝関係はもっと複雑だ。少なくとも中国は、北朝鮮を制御できるとは考えていない。これは中国に限った話ではない。かつて旧ソ連の高官は、NHKの取材に答え、大国を翻弄する北朝鮮を「しっぽが犬を振り回す」と形容したことがあるが、まさに中国もロシア同様、北朝鮮に振り回され続けてきたのだ。

やりたい放題の北朝鮮に若手と軍部も不満噴出

 中国で対北朝鮮外交に携わる若手や軍部には、北朝鮮の6カ国協議復帰を中国の外交的勝利と位置付けることに対する不満の声が渦巻いている。

 それは「6カ国協議の脱退宣言から今日まで、核実験やミサイル実験などやりたい放題をした北朝鮮が、単に6カ国協議に戻るだけで大喜びする中国指導部に対して苛立ちがある」(若手外交官)からだ。

 そもそも北朝鮮の核武装という視点では、日本以上に大きな脅威を感じたはずの中国が、準備段階でそれを阻止できなかった事実こそ、中国の影響力の限界を物語っているのだが、中国側が北朝鮮に遠慮しているように映る背景には、もう一つ見逃せない理由もある。

同じ土俵では交渉できない

 それは、中国が北朝鮮のことを同じ交渉のステージで話し合える対象ではないと見做していることだ。

 常に戦争を想定した国家建設を進めてきた北朝鮮と経済発展を謳歌する中国とでは、条件が違いすぎる。北朝鮮に比べて中国は守るべきものが多過ぎるというわけだ。実際、北朝鮮の核武装を最終的に力で防げたとしても、その代償に北京や上海が火の海となれば、中国経済は壊滅的ダメージを避けられない。戦争に備えて地上には「破壊されて困る建築物は造らず、市民も全員が20分以内にシェルターに避難できる」(北京の外交筋)国と同じ土俵で交渉できるはずはない。

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